52話

処置台にいたカエデは、眩しい光を浴びせられた。

 

麻酔の注射が近づいてくると絶叫し、母ちゃんと叫んで助けを願った。

 

少年だった頃のカエデは歯医者が嫌いで、と言うより痛いもの全般が苦手で仕方なく、痛みを和らげるための麻酔注射自体がそもそも痛いことに抵抗しようとしていたが、逃れることはできなかった。

著者名:鬼八頭かかし 引用元:ヤングガンガン2018年23号

 

 

待合室で待っていた姫蘭こと母の輝子は息子の無様な叫びに呆れるが、カエデはそもそも麻酔注射が痛い意味が分からないと言い返しつつ、助手のお姉さんの胸が大きかったと感想を伝え、エロガッパとも呆れられた。

 

もちろん齢9歳の息子にそんなことで本気では怒らず、男が泣いていいのは家族が死んだ時だけだと輝子は教育した。

 

カエデは、口が悪過ぎる母でも大好きだった

著者名:鬼八頭かかし 引用元:ヤングガンガン2018年23号

 

 

 

だからカエデは母の言いつけを守り、解剖地獄にも泣かずに耐えたかったが、いきなり腕を切り開かれ、筋肉の動きを確認されてから手首を切り落とされては泣き叫ばずにはいられなかった

 

悪意と慈愛に満ちた天使二人は切り落とした手首で遊び、カエデは気を失いたくても失えない激痛に頭がおかしくなりそうだった。

著者名:鬼八頭かかし 引用元:ヤングガンガン2018年23号

 

 

手首の断面から飛び出た動脈から血が溢れ出すが、シロエルが簡単に死なないようクリップで切り口を無造作に留め、カエデはまた絶叫した。

 

解剖による生き地獄にカエデは今すぐ死を願うが、人類の医療の歴史を勉強していたクロエルは昔々の話を持ち出し、苦笑いで死を先延ばした

著者名:鬼八頭かかし 引用元:ヤングガンガン2018年23号

 

 

何よりクロエルは、カエデがユキの本名を口に出して自分の命を優先させる姿が見たかった。

 

 

カエデが解剖され始めたのを見たユキは、命を懸けて自分を生かしたカエデが名前を言わないはずだとも、苦痛と誘惑に負けてしまうかもとも思っていた。

 

その不安を消すためには、今すぐカエデの本名を口に出して自分が始末すればいいが、どうしても自分を命懸けで助ける人物に心当たりがなかった。

著者名:鬼八頭かかし 引用元:ヤングガンガン2018年23号

 

 

そんなユキの不安そうな顔に気づいたカエデは、改めて本名は言うまいと心に決めた。

 

 

真っ青な顔で、ユキにだけ分かる思い出を口に出していくカエデ。

 

ユキはそれで、カエデの正体に心当たりができた。

著者名:鬼八頭かかし 引用元:ヤングガンガン2018年23号

 

 

 

歯医者の注射で絶叫していた子供の頃、カエデが家に帰ると、母から父方の伯母が死に、叔父も行方不明になったので従兄弟二人を引き取ることになったと聞かされ、年下の良真幸花の心情を慮った。

 

だが父は甥っ子たちを憎んでいたので初日から辛辣に当たった。

 

だからカエデは大人気ない父に代わり、大歓迎の笑顔で出迎えたのだが、まるで覚えてもらってなくてショックを受けた。

著者名:鬼八頭かかし 引用元:ヤングガンガン2018年23号

 

 

それは引きずらず、すぐに自分の部屋に引っ張って気落ちしている気分を少しでも晴らしてやろうと思った。

 

カエデにしてみても経緯は辛いがゲームの対戦相手ができたのは嬉しく、さっそく良真をボコボコにして下品な笑いを上げて楽しんだ。

 

その時、カエデが下品な笑い方をすることを知った良真はリベンジを誓うも、先に幸花の意外な才能にカエデは敗れたのだった。

著者名:鬼八頭かかし 引用元:ヤングガンガン2018年23号

 

 

ゲームで少し打ち解けた後、カエデは叔父と叔母の事件を良真から聞かされた。

 

その事件のショックで幸花が喋れなくなったのも知り、幼い兄妹に課せられた重すぎる境遇に同情し、強く生きようとし過ぎる従弟のたくましさを認めつつ、それでも自分も幸せになる協力をするからと励ました。

 

他人に頼る気のなかった良真はそっけなかったが、ゲームで勝てないことを指摘すると、対抗心を燃やして活き活きとしてくれた。

著者名:鬼八頭かかし 引用元:ヤングガンガン2018年23号

 

 

しかし、年下の従兄弟たちを守ると決めた誓いは、すぐに瓦解してしまった。

 

 

罪のない子供たちに辛く当たり続ける父は、食事中に幸花が箸を落としただけで憎しみを募らせ、ここぞとばかりに躾と称して暴力を振るおうとした。

 

ただ、そんな時は必ず良真が間に入って庇った。

著者名:鬼八頭かかし 引用元:ヤングガンガン2018年23号

 

 

睨みつける良真に父が本気で切れそうになったので、カエデは間に入って誓いの通りに守ろうとした。

 

初めて見た父の激昂した姿に体は震えていたが、さすがの正史も自分の息子の願いで手を引いた。

 

ただ怒りは治めず、まだ食べだしたばかりの食事を下げろと息子に命令した。

 

 

カエデは許しを請うが父は憎しみで怒気を発散させる。

 

そんな恐ろしい父親に、幼い子供が反抗することなどできなかった。

著者名:鬼八頭かかし 引用元:ヤングガンガン2018年23号

 

 

従順に従兄弟二人の食事を下げた時、涙を止められなかった。

 

父が私情を挟んで甥っ子に憎しみをぶつけていると知っても、自分が守れなかったことには違いないと自身を責め、消えない後悔としてずっと心にこびりつくことになった。

 

 

 

そうして今、良真に贖罪する機会を手に入れたカエデは、今度こそ守ろうと心に決めた

 

悪魔のような天使二人が開腹を前にしてワクワクしていても、ユキの本名を口には出すまいと思うが、恐怖が全身を飲み込んでいく。

著者名:鬼八頭かかし 引用元:ヤングガンガン2018年23号

 

 

ユキも、カエデが口走った言葉で正体に気づいた。

 

勝てなかった対戦ゲーム。

下品な笑い方。

 

今メスで腹を引き裂かれているのが、従兄の正輝だと。

著者名:鬼八頭かかし 引用元:ヤングガンガン2018年23号

 

 

感想

たとえ灰になっても50話51話52話でした。

一回戦でもなかなかの残酷な関係性が明かされましたけど、今回の切なさは涙ものですね。

姫蘭が最後の最後に救いを感じて逝けたのは良かったと言えば良かったですけど、息子がすぐ無残な母の姿を見なければならないなんて、悪趣味が過ぎる。

カエデが普通に良い奴だったので、腱をくいくいは辛すぎる。

たとえ灰になってもを読むならこちら