
新世界よりネタバレ感想7巻
サイコバスターを手に入れた早希。
瞬との最後の会話で、共に死地を潜り抜けてきた覚が誰よりも大切な存在だと気付き、一緒に生きて帰り、死んでいった友人達に自慢できるような未来を作ることを改めて決意する。
そのためには、親友の子供を殺さなければならない。
第24話 謀略
覚の元に辿り着いた早希は、以前から感じていた違和感を話す。
バケネズミの手に渡ったあの子供が、そう都合よく悪鬼になるだろうか?
もしかしたら悪鬼でない可能性もあると伝えるが、もしそうでもあの子供を殺さねば人類に未来はないと諭される。
奇狼丸の案で、早希と覚が悪鬼を誘い出し、サイコバスターを投げつける作戦になる。どうも覚と奇狼丸の間に漂う雰囲気が変わっているのに気付いた早希は、何かあったのか訊いてみた。
奇狼丸は以前、スクイーラに塩屋虻合同コロニーと合併しないかと誘いを受けていた。
ミノシロモドキにより急速に知識と技術を得た彼らは、神を自称する人類に戦争を挑むため、大雀蜂の力を取り込もうと考えていたのだった。
奇狼丸も人類に唯々諾々と従う現状に不満を抱いていたものの、戦争を仕掛けようとは思っておらず、その申し出を断った。
するとスクイーラは、せめて「女王様方」に挨拶していかれては?と言ってきた。
しかし、バケネズミのコロニーでは、女王は一人しか存在し得ない。どうやって複数のコロニーが合併できたのか不思議に思っていたので、それを確かめるためにも女王に会いに行った。
だが、そこには確かにそれぞれのコロニーの女王がいたが、どれも脳に手術を施され、子供を産み落とすだけの生命体に成り果てていた。
女王の絶対王政を覆し、民主政治を取り入れた彼らは、さながら人の歴史をなぞっているようであった。
親であり長である女王をないがしろにする行いに、奇狼丸は同調などできなかった。
やがて奇狼丸の合図が聞こえ、作戦が始まった。
悪鬼に姿を見られず、目的の位置まで誘い込むには、計り知れない緊張感とストレスがかかった。しばらくすると、追って来る足音が聞こえなくなった。その時、罠にかけられたと知る。
目の前の天井が崩落していく。追いかけてきていたのが悪鬼であるかのように見せかけ、本物は前方で待ち構えていたのだ。
風下に立たされた二人はサイコバスターが使えなくなった。
作戦が失敗し、早希が言っていた悪鬼ではない可能性にかけて、一つの案に願いを託す。
第25話 罠
あの子供が悪鬼でない可能性は十分に考えられる。書物にあるような記述とは明らかに様子が違うし、なぜバケネズミは呪力で殺されないのか?
それは、生まれてすぐに真理亜たちと引き離され、自分をバケネズミと勘違いしているから。
バケネズミには鏡を見る習慣がない。つまり仲間を助けるために呪力を使っているに過ぎないかも知れない。
その可能性に賭け、二人は鏡を生成し、自分自身の姿を見せた。
しかし、鏡の存在さえ知らない子供には効果がなかった。
鏡は岩石をぶつけられ粉々になり、流れ弾が覚の頭にヒットしてしまう。
幸い深手にはならず、ミノシロモドキを囮にして窮地を脱する。
悪鬼はミノシロに呪力を使い、あの時の早希たちのように目暗ましを受けて、視界を奪われた。
覚は子作りをしようと言ったくれた時の早希の目を思い出した。それまでにあった迷いや不安が消えて、覚だけを映していた。
その時、自分も瞬たちのことを引きずって、早希を真っ直ぐ見れていなかったことに気付いたのだった。
覚は踵を返し、サイコバスターを握り締めて悪鬼に向かっていく。
愛する人が生きられる未来を作れるなら、自分の命など安いものだった。
容器が割れ、空気中にばら撒かれていく炭疽菌。覚は死を覚悟し、悪鬼は立ち尽くす。
次の瞬間、炭疽菌が炎に包まれ、一瞬のうちに消滅していった。
髪に炎が燃え移り、転げまわる悪鬼。
覚の後ろでは、炎を発生させた早希が涙を流して覚の行動を詰っていた。
だが、サイコバスターを燃やしてしまったことをすぐに後悔する。もう悪鬼に抗う術はなく、二人は死を覚悟した。
その時、奇狼丸が悪鬼に石礫を投げつけ、逃走の隙を作ってくれた。だが、外に出ようにも、銃を構えたスクイーラたちが待ち構え、後ろからは悪鬼が近づいてきていた。
早希は、身勝手な行為を後悔して悲嘆に暮れるばかり。
すると奇狼丸が「泣き言は墓穴に入ってからうじ虫に聞かせろ!」と怒声を発した。それはバケネズミに伝わる諺らしく、死ぬまで諦めるなと二人を鼓舞するのだった。
その直後、早希の頭の中に瞬の声が響いてきた。とても大事なことを見落としていると・・・
第26話 戦いの帰趨
瞬の声は続けていく。奇狼丸は切り札になり得ると。そして悪鬼ではない可能性と照らし合わせると、まだ悪鬼を殺せる手段があることに気付いた。
そこで早希は奇狼丸に、かつて東京を探索した理由を問い質した。それは人間の気まぐれでコロニーを滅ばされないための抑止力になる先史文明の兵器を手に入れるためだったと、正直に打ち明けた。
その言葉を信用した早希は、ある一つの真実を説明していく。
もし悪鬼なら人間、バケネズミ問わず無差別に殺戮をするはずだ。そして、人間に対する攻撃抑制や愧死機構がなぜ発動しないのか?それは、バケネズミがその対象になっているから以外、考えられない。
塩屋虻と大雀蜂の戦争に介入した際も、武器を取り上げるだけに止めたのも裏づけになる。
そして、残された最後の手段は一つしかない。
バケネズミである奇狼丸を呪力で殺させ、愧死機構を発動させるしかない。
覚はやっと腹を割って話せた彼を、唯一無二の仲間のように感じていたから、その作戦に賛成しかねたが、奇狼丸自身が無理やり納得させた。
地上に飛び出し、さも奇狼丸が呪力を使っているように錯覚させる。
仲間を殺された悪鬼は怒りに震え、奇狼丸の体に風穴を開けた。
そしてフードを捲り、顔を晒した奇狼丸。
大雀蜂コロニーの再興を二人に約束してもらい、彼は勇ましいまま生涯を閉じた。
バケネズミを殺した真理亜と守の子供に愧死機構が発動し、苦しみに悶えていく。
バケネズミに利用され、バケネズミのまま死んでいく憐れな人生だった。
救世主になるはずだった人間の子供が死に、スクイーラは抵抗を止めた。
生き残った進と翔と共に、神栖66町に戻った彼らは、悪鬼の殺害とスクイーラの捕縛を伝え、町に士気を取り戻していった。
日本の他の地域から応援が駆けつけ、順調に町の平和が取り戻されていく。反乱分子は殲滅され、奇狼丸との約束通り、大雀蜂の女王も無事に保護されて、一応の決着がついた。