59話
善がイザナギになり、村の女たち全員に種を注ぎ込んだ一方、無事に絵理沙と再会できた怜人はまた船上の人になっていた。
向かうは香港。
怜人チームとして同行し続けているマリアはどこまでも続いている大海原を眺めながら、一人デッキで物思いに耽っていた。
同じくデッキに出てきた怜人はマリアを見つけ驚き、何をしているのか訊ねると、彼女はいつものどもり調子で眠れないのだと答えた。

同じ理由だった彼は仲間意識で笑顔を零し、横に並んで海を眺め始めた。
香港までどれくらいだろうと彼が疑問を口に出せば、マリアは安全なルートでも明朝には着くと思うとさっと答える。
そこで彼は、妹とせっかく再会できたのに日本に残らずついてきたのに驚いたのを明かした。
マリアは妹の元気な姿を見れたから大丈夫だと答えた。
彼は更に、危険が付きまとう自分の旅になぜ同行してくれたのか理由を訊ねた。
するとマリアはいつにも増して言葉が詰まり、頬を赤らめ、担当官なんだからという理由を搾り出した。
素直に本音を出せない女心に気づけない彼は、責任感の強さに微笑みかけるが、それがまた男性経験のないマリアを刺激した。
運命にも思える二人きりのいい雰囲気に触発されたマリアは、もう一つの大きな理由を言葉にしようとした。
しかし、真に惹かれ合っている絵理沙が彼を探しにやって来てしまったのだった。

絵理沙の用件を優先した彼は軽く挨拶してマリアを残し、両想いであるはずの彼女と肩を並べて船内にしけこんだ。
またすぐ一人きりになったマリアはうまくいかない現実に溜息を洩らし、柵にもたれかかった。
部屋に戻った絵理沙はまず、慶門市で会ったはずの谷口のばあちゃんがどんな様子だったか訊ねた。
彼は昏睡状態で油断ならない状態になってはいるが、そうなる前は偏屈でも強い自分を持っている人だったと話し、二人して笑みを零した。

そして彼は、やっと笑顔を見せてくれた絵理沙をまじまじと見つめ、この5年の苦労を慮った。
絵理沙自身もそうだが、大学時代の友人、動物研究所の上司、先輩、その他諸々の研究者がアメリカに渡ってからの消息が不明なのだという。
彼もその話を聞いて、マリアの周囲の人も同じように行方不明になったらしいと伝えた。
そんな状況だから絵理沙は、世界を救う希望そのものの彼を独占するわけにはいかないと言い出した。

つまり独占できないと言うのは、彼の童貞を奪ってもし身体に何か変化が起こりでもしたら、取り返しがつかないという意味だと補足した。
彼も急に恥ずかしくなって納得するが、絵理沙は好き合っているのに愛し合えないのはジリジリしたお預けプレイ的なものじゃなく、人類の命運がかかっているのだから、マジで浮かれていられないんだと続けた。
それも彼は納得し、受け入れるが、これでもかとガッカリ肩を落とした。
そんな訳で再会した時も妙にクールだった絵理沙。
しかし、5年も待たされたせいもあってか他の誰にも彼の初めてを譲る気はなく、全てが解決した後の予約を取り付けるために勇気を出し、「…ね?」と言った。
彼は感動やら何やらで、まひるや絵理沙にしか出さない口調で驚いたのだった。




































