25話①
明日の朝に出直してくれと言われた彼は、素直にそうしたが、朝と言っても幅があるなと思いながら朝早い時間にまた小川の傍に建つ小屋のドアを叩いた。
アークメイジは特に気にせず彼を招き入れ、肉感的な足を組みながら何やらカードを並べていた。

出直した用件とは指輪に対する報酬について。
アークメイジは若い男一人の冒険者なら高い確率で身体を要求されると思っていたせいで、まさかゴブリンの知識を求められたことに、一日経っても笑いがこみ上げる。
それも、自分が男好きのするなかなかの美貌とスタイルをしている自負があったからだ。
そんな風に色気を放ってみても、彼は誰に対しても興味を示さない乾いた返事を繰り返すのみ。

アークメイジは諦めて手っ取り早く、身体を選んでいたらどうしていたんだ?と訊いてくれと素直に頼み、彼は素直にその質問を繰り返してやった。
するとアークメイジは二ヤリと微笑み、幻術で要求を叶え、忘却術で忘れさせて追い払うと事も無げに答えた。
詐欺だと言われようが、価値とは絶対的ではなく相対的なものだという。
先生との過去と照らし合わせた彼はアークメイジの言い分を認め、もう一本林檎酒を進呈してから本題に移らせた。
タイミング良く、アークメイジは怪物辞典の改訂作業を頼まれて行っている最中で、数ページ担当している中にゴブリンが含まれているという。
そのためにゴブリンの生態を調べる必要があるアークメイジの望みは、ゴブリンの解剖。
そんな時にゴブリンの知識を欲している冒険者が現れれば、利害が一致するのは当然だった。

辺境の村外れに現れたゴブリンが悪さをし、ついに村娘まで攫おうとした。
怒った若い村の男たちは討伐に出ようとするが、村長が危険を冒すのを許さず、ギルドに依頼を出し、それを彼が引き受け、そして今、彼はアークメイジを連れて森の中をかき分け、巣を目指していた。
長いローブを着ているのに苦も無く枝葉をすり抜けてくるアークメイジの力量は?等級は?
彼がそんな疑問を抱いている後ろで、アークメイジは林檎酒片手に、ゴブリンの行動原理を段階的に分けるとして、定着、悪事、村を滅ぼすのが第三段階だとすれば、第四はあるのか疑問を投げかけた。
二人とも見聞きしたことがないその答えが出る前に、巣に使われている塚山に辿り着いた。
見張りは眠そうにあくびをしているのが一匹。
アークメイジは交代やサボりのタイミングを狙うことを提案するが、彼はゴブリンは皆殺しにするから今殺すと決め、静かに距離を詰め始めた。

ナイフを命中させられる距離まで近づくと肩に投げ刺して奇襲をかけ、混乱しているうちに喉を突き刺して止めを刺した。
これは喉の一撃で仕留められたが、喉が急所とも言い切れないと聞いたアークメイジは興味深そうに腰布を捲り、化物の股間がどんなモノか確かめた。
解剖は後回しにして巣に踏み込みたいところだが、彼はアークメイジの女の匂いに気づかれることを懸念した。
匂いだけでも気づかれる可能性があると聞いたアークメイジはお気に入りのローブを脱いで彼に渡すと、腰のナイフで躊躇わずにゴブリンの腹を引き裂いて内臓を取り出した。
そして血溜まりから血を掬い上げ、小川の水のように浴びた。

人間とゴブリンの臭いに対する感知傾向を推察したところで、彼を先頭に巣に入った。
堂々と松明をつけて進むことに、彼はゴブリンは夜目が利くが自分は利かず闇に乗じるメリットがないと説明すると、アークメイジはそもそも人とゴブリンでは世界の映し方が違い、夜目が利くと言うより闇を見通せるのかも知れないと考えた。
壁抜きをされたことがあると聞けば、ベーコンのフライ音と返すアークメイジ。
落とし穴、待ち伏せ、学びさえすれば居住環境による罠の違いも出てくる。
辞典をどんな言葉で埋められるか考えながら進んでいたアークメイジに対し、彼は気にするべき存在が増えたことでソロで動いていた時との違いに少し戸惑いを覚えた。

直後、アークメイジが狼の糞を発見した。
術の心得を訊ねた彼だったが、舐めるなと言われてからこっちは依頼している側だとも言われると、ここは自分が退けなければいけないなと納得した。
一本道を進んできた以上、後退しても意味がなく、一気に二頭襲いかかってきた狼を迎え撃った彼は、一頭を棍棒で殴り倒し、もう一頭を先に仕留めるために胸元に剣を振り抜いた。

しかし浅く致命傷を与えられず、逆に地面に組み伏せられてしまうのだった。
































