37話
野を行く彼とアークメイジ。
道すがら林檎酒を流し込みながら、アークメイジはあの子について話題を振った。
彼は牛飼娘のことだと思ったが、アークメイジは彼と話していた魔女が気になっていた。

単なる仕事の話だと返せばその話題はすぐに終わり、アークメイジは見るだけで暑苦しい格好をしている彼に、胸元にパタパタ風を送りながら暑くないのか訊ねた。
そうして暑そうに振舞うアークメイジはしかし、汗をかいているようにさえ見えない。
季節はもうすぐ夏に入ろうとしていて、街を出てから二日が経っていた。
夜営の火を囲みながらの会話はやはりゴブリン退治だが、アークメイジは牧場産のソーセージに舌鼓を打ち始めた。

彼も兜をつけたまま器用に胃の中に落とし込み、温かくて美味いものを喰えと師匠から教わったことを話し、アークメイジもそれについては同意し、また林檎酒を流し込んだ。
生きるために美味いモノ、食べたいものを食う。
ではゴブリンはどうなのか。
常に痩せて飢えているようで、際限なく欲求のままに生きているが、彼にとってそんなことはどうでもよく、退治するために不必要な知識だった。
だからアークメイジは、彼がゴブリンについて書を興さないのも頷けるし、それをする労力がどれほどか分かっていたので判断を尊重できた。
怪物辞典はそう易々と完成できるものじゃなく、学び、調べ、書き、編纂し、写本して製本し、各地へ届けて管理・保管して世の中の人々が目を通していく。
一冊にとてつもない労力がかかっている以上、アークメイジはそれを役立てられない無能に無償で教えたいとは思っていなかった。

ゴブリンの書ともなれば、費用対効果は望めたものでない。
聴き心地のいい冒険譚に憧れ、理想を叶え、豊かになり、幸せに包まれた優しい世界。
アークメイジもそれ最高だと理解しているが、しかしここは神々の気まぐれに満ちた盤上の世界であり、どこの誰かも分からない者が死のうと同情など湧き上がってこなかった。
そんな中で彼の知識は、バグのような異質なものに感じられた。

翌日、荒野を行く二人。
何もない所でここがある意味目的地だと言い出したアークメイジは、手品のような手つきでサイコロを見せ、角はいくつか?面はいくつかと彼に答えさせ、最後に角に至れば何が見えるか問うた。
その答えは三面。
彼がそう答え、アークメイジが満足して後ろを手で示すと、そこに禍々しい塔が見えた。

彼はいつも通り、ゴブリンは皆殺しだと言って歩みを進めた。
感想
ゴブリンスレイヤー外伝35話36話37話でした。
魔女の可愛さは言わずもがな、あの喋り方には何かきっかけでもあったのか気になりますね。
https://www.kuroneko0920.com/archives/68535
































