211話
碇は爽やかな雰囲気を放とうとしているが、胡散臭さが拭いきれていなかった。
颯爽と先頭を歩き、自衛隊と選抜市民の突入部隊が待っている場所に案内すると言いながら、自衛隊の方が立場的に上だとそこかしこに散りばめていくマウント気質な話術。
3人には何も響かず、山田が部隊長をやるものだと思っていた関は不満を漏らすが、戦車という兵器を用意されてしまうと驚かざるを得なかった。

巨大化していった変異体、それに対抗するには兵器が欠かせず、だから扱える自衛隊が部隊をまとめるべきだとのたまい、そのトップはヤル気に満ち満ちている自分なのだと語る碇。
その勢いでもって、所詮はただの女子高生でしかないと紗月をディスりつつ、立場を奪い取ろうとする。
すると紗月も山田と同じく、めんどくさくなったのか碇に任せてもいいかなと思ったが、検査キットを自分が持っていないことを看過できそうになかった。

そして隊員たちが集まっているところに着いてすぐ、紗月は向けられた視線で察した。
さっそく出発前のスピーチを促された紗月は、さすがに何も考えていなかったのでまごつくと、碇がここぞとばかりになら代わりましょうかとしゃしゃり出ようとする。
つまり碇は世渡り上手で、カリスマを掠め取って何が何でも部隊のトップにいたいのだ。
しかし紗月は困った風に笑いながら戦車によじ登ると、学校の朝礼よろしく朝の挨拶からおっぱじめた。

元気のいい大きな挨拶にいくつかの声が返ってくると、自分に向けられた視線からあることに気が付いたと切り出した。
五月雨紗月に求めていたもの、それは荒野に燦然とはためく巨大な旗なんだと。
非日常で見つけた、大いなる希望にも見える巨大なフラッグに未来を託して集まったのだが、いざ紗月を見てみると神々しいオーラもカリスマ性も感じられず、普通の女子高生でがっかり。
しかし紗月は現実なんてそんなものだと認め、自分は荒野に小さな旗を立てただけで、大きくしていったのは希望に集まってきた人たちだという。

自分は凡人だと貶めた紗月はしかし、それも昨日までだと一気にテンションを上げて宣言し、この作戦は保菌者騒動を終わらせるものだと言い切り、掌を太陽に向けた。
見えないフラッグを手に取り、先頭を歩いていく紗月の姿が具現化されたように、彼女の計算され尽くした演説は当たり前のように心を掴んだ。

こうして隊員たちに認められた紗月は続いて碇に話しかけ、私に託されたものだから検査キットを返してとと迫った。
ごちゃごちゃ言われようが一切引かない紗月は、最重要アイテムをトップじゃ無い者が持っていたら隊員の混乱を招くから、返しさないと凄むと、大の男は気圧されて素直に従った。

紗月がここまで凄い自己演出ができるのも、晴輝に会えるからだった。



































