20話①
今日も今日とてギルドは大勢の冒険者で賑わっていた。
受付嬢は笑顔を絶やさず、カウンターにやってくる冒険者の対応をしながら、例え大型の怪物を一体倒したところで、依頼は限りなく持ち込まれるのだと改めて理解した。
もちろん怪物だけでなく、盗賊に身をやつした人間が討伐対象になることもある。
魔術師が要塞を占拠したり、大金持ちの娘が吸血鬼に狙われているという情報が舞い込んだり、ケンタウロスの部族が襲撃を企てている、なんて本当か嘘か分からない噂話まで飛び交うのがギルドという場所だった。
そしてゴブリン退治も忘れてはならないと思ったところでようやく仕事にキリがつき、受付嬢は凝り固まった肩を伸ばすも、すぐに一番忘れるわけにはいかない、ある書類を取り出した。

それに記入し始めると、心が浮き立ってくる。
隣で軽食を摂りながら休憩していた先輩がひょいっと覗き込んで何かと訊いてみると、受付嬢は楽しそうに思わせぶりに笑いだす。
先輩が昇級審査の申請書類だと気づくと、受付嬢はなぜか自慢げにそうだと答えた。

このタイミングで昇級できそうな案件と言えば、先の鉱山に巣食っていたロックイーター討伐成功くらいで、白磁も多く参加していたのだから、実績としては申し分なさそうだった。
実績、獲得報酬額、周辺地域への貢献と人格。
それらで査定されるのだが、受付嬢が書いている冒険者の名はロックイーター討伐には参加していなかった安物の鎧で覆った新人冒険者だった。
ただ受付嬢は、彼の頑張りに注目し応援し続けていたので、彼の昇級が叶うなら我が事のように嬉しかった。

先輩は実績がゴブリンばかりなのに眉を顰めるが、ここ最近ゴブリン退治の依頼が残らなくなっているのに合点がいった。
ともあれ、ゴブリンと言えども数をこなせば十分な実績として評価されるのも否定できない。
ただ、受付嬢が応援している冒険者を昇級させるために不正をしてやいないかと、僅かに心配になって直球で訊ねると、彼女は即座に否定して頬を膨らませた。

以前は違うことを言っていたが、受付嬢がウキウキして審査書類を書いているのを見せられれば、先輩は応援したくなる冒険者がいることにも寛容な姿勢で受け入れた。
時と場合によって言うことが変わる。
そんな風にあっさり開き直られては、受付嬢も笑わずにはいられなかった。
いつも以上に気分よく仕事が進められたところで、飲みに行けたら飲みに行く約束を交わしつつ、件の彼に最近あだ名がついたらしいことを、先輩は思い出した。
彼はあだ名と共に冒険者の間でも存在を知られ始めていた。
安っぽい鎧と兜。
ゴブリンばかりに執着している男。
白磁だったそいつがゴブリン退治を繰り返し続けて、いつの間にか黒曜級に昇級したらしい。
他の冒険に誘っても断られ、やはりゴブリンにしか興味がないらしい。
そんなにゴブリン退治が好きなら、竜殺しならぬ…
そんな噂があちこちでされるようになったが、本人は露知らず、いきなり聞き慣れない名前で呼び止められ、すぐには自分のことだと気づかなかった。
声をかけたのは、仲間の敵討ちのつもりでロックイーター討伐に参加した駆け出しの戦士だった。

彼がゴブリンに酷い目に遭わされたと聞いた戦士は心配して声をかけたのだが、人知れず少女の癒しの祈りで回復してもらった彼は問題ないとそっけなく答えた。
戦士はもう前を向いていて、ソロでやれる依頼だからとこれから下水道の鼠退治に行くのだという。

彼は相変わらず「そうか」としか言わないが、仲間を失う辛さを経験した戦士は、同期のよしみとして、何かあれば声をかけろと言いながら拳を彼の胸に当てた。
彼が素直に厚意を受け取ったので、戦士も笑顔を返した。

今日はギルドに報告に来ただけの彼は、これから帰るところだと言って背中を向け歩き出した。
しかしすぐ立ち止まって振り返り、さっきの聞き慣れない呼び名の意味を訊ねた。
戦士は本人がまだ知らないことに驚きつつ、あだ名だと教えてやった。
ゴブリンスレイヤーとは、お前のあだ名だと。






















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