噴き出る汗と震える体。
ふと思い出したのは今まで死んでいった所長や仲間たちで、彼らに恥じずに全力を出し、自分の能力以上の成果を出せたはずだと信じるも、激しい咳が止まらない。
神城が無事に脱出し、晴輝も後を任せられるほど成長した。
もう思い残すことがないと言い聞かせると、仲間たちに胸を張って会えると思った。

ただ、いよいよこの世から自分もいなくなると思うと、あの日からの今までが、まるで何十年も経っているように辛く長く感じられた。
カーテンが閉められ、電気もついてない薄暗い部屋は強盗が入った後のように荒れ、血も飛び散っていた。
最愛の妻と子供を失ってから一人で生きてきた時間は、淀川にとって既に地獄だった。

その生き地獄からさよならし、天国にいるはずの二人にも会えると思うと、自然と涙が零れた。
そうして目を閉じ、終わりを受け入れようとしたのに、まるでトラックでも突っ込んできたかのように出入口のドアやガラスが砕け散った音が聞こえてきた。
淀川は犯人側を追い詰めるべき時に救出を選んだ神城を諭してやりたかったが、すぐに仲間を見捨てられるような奴ではないんだと思い直した。
理屈では毒ガス攻撃から助けられないと分かっていても、それを覆そうとするのが神城だった。

たっぷり水分を含ませた布を頭部に巻き付けた神城は、まだ死んではいないはずの隊員たちや淀川に向け、三十秒だけ息を止めろと叫んだ。
全員助けると言い切った神城は毒ガスを吸い込まず肌にもつかないよう目も口も覆い、思いっきり息を吸い込んで準備を整えた。

まだまだ毒ガスが充満している室内に飛び込んだ神城は真っ先にタンクに向かい、力任せに外に放り投げた。
これ以上ガスが濃くなることはなくなったが、淀川はいつまでも少年のままの神城への不安が消えぬまま、もう一度目を閉じようとしていた。
神城は一人一人担いで運び出すという時間のかかる方法は取らず、横着して机を押していくつかまとめて教室の端に集めるような感じで、隊員たちを何人も一気に外まで押し出した。
まさに英雄になれるパワーだが、大勢ではなく目の前の可能性の低い者を助けてしまう、教えたことを守らない危なさ。
しかし、もう教える者がいなくなるのだから、これからは神城だけで培った経験により、消防士としての道を切り開かなければならない。

淀川は成長していく一番頼もしい後輩の姿を見守れないことを残念に思った。
感想
インフェクション132話133話でした。
神城はチート級の身体能力で助かっていたのはいいとして、このまま他の者が全員退場となるのか、共倒れか、蓮華が活躍するのか。
とにかく、133話は泣けました。
https://www.kuroneko0920.com/archives/56863






























