163話
次に進化の犠牲に選ばれたのは明石だった。
苦しみ出した明石を振り返った関は何とも言えずに言葉もかけられなかったが、明石はさっきの男性のように気丈な笑顔を返した。

直後、山田が前を見ろと叫び、関は完全によそ見運転していたことに気づいた。
歩道に乗り上げフェンスに突っ込みそうになっていたのをギリギリ回避し、無事に右車線に乗せた。
あわやの大事故を回避した際の急ハンドルで車は大きく遠心運動で引っ張られた。
その時、山田は隣の明石の方を見て目を見開き、すぐに覚悟を決めたように目を細めた。
すぐに車を停めた関が振り返った時にはもう、そこに明石の姿はなかった。
親友の消失に平静でいられない関は少し顔を上げ、路上に倒れ伏している明石を見つけた。
急ハンドルで振り落とされたと思った関はすぐに助けに行こうとするが、山田が強い口調で止め、運転で振り落とされたわけじゃないと伝えた。
そんなことより、関は山田が弓を構えていることを見過ごせなかった。

一瞬で覚悟を決め、ここが人生の終わりだと悟り、自ら途中下車した明石。
その潔さに報いるためにも、山田は他の避難者と分け隔てなく、こうなった時にやるべきことをやるために矢を番えた。
そう簡単に受け入れられるはずのない関は叫び、止めようとするが、座席の間に引っかかって勢いを削がれてしまう。
見ない方がいいと言われてもそれも受け入れられずに顔を上げ、もう止めようとはせずに明石の変わりゆく姿を見つめた。

明石は全身痙攣のようにピクピク震え始め、関は救いのない現実を嘆く。
知恵を絞り、保菌者騒動当初から多くの命を救い、秋保でも最善を尽くして人命救助に多大な貢献をしてきた。

それを可能にしたのは好奇の目で見られてきた蓄えた知識のおかげで、これからやっと心を開いて付き合える人間関係を手に入れたと思った矢先の終わりに、関はとにかく嘆いた。
たった一人の親友同士だったが、これから友人関係が開けていきそうだった。
それが凄く嬉しかった関は、明石が選ばれた残酷過ぎる現実に泣き叫んだ。

そして明石は変異を遂げ、最新の進化をした保菌者に変わり果てた。
まるで蝙蝠のような巨大な翼か膜か、腕の先は電柱よりも高かった。
その形態を一目見て、山田はどういう意図で進化したのか気づいた。
明石は確実に自分を守るように、腕をクロスさせて膜を広げていた。

山田は情けをかけずに一発放つが、矢は膜で防がれ、破るどころか傷一つつかなかった。
関は喜んでいいのか悲しんでいいのか分からず、地面に落ちた矢を見た。
銃や刃物なら難なく通りそうな膜。
山田はその進化形態に自分への配慮を感じた。

それが正解であるかのように明石は山田と関に襲いかからず、巨大な翼で飛び立って空の彼方へ消えた。
山田はずっと冷静に努め、明石が保菌者に変わったこととその特徴をすぐに報告した。
その後ろで関は、明石を変えた犯人への憎悪を募らせた。
関が憎しみに囚われていっても、明石の最期の願いを守るため、山田はずっと冷静を維持し続けて運転を代わった。
一方、何とか生き永らえている神城は懸命に這い続け、ついに倒れている蓮華の元に辿り着こうとしていた。

そんな二人を見つけたのが、片足を失った超脚力タイプの保菌者だった。






























