164話
神城は瀕死の身体で蓮華の元まで辿り着けた。
静かに倒れている蓮華の脈を確かめ、綺麗な身体のままなのに事切れている非情な現実を知り、疑問がもたげた。
しかし悲しみに暮れている暇はなく、自分にも死が迫っていることを受け入れ、蓮華の身体を漁り、ありがたく特効薬を見つけることができ、感謝した。

これで命を長らえることはできたが、神経ガスに長く侵された身体が治癒し切ることはなく、戦線に復帰することはできないだろうと悟った。
注射を打っても役に立たない自分に打ちひしがれた直後、何かに掴み上げられた。
晴輝に片足を撃ち抜かれた変異体が舌なめずりし、もはや満足な抵抗もままならない神城を喰って回復しようとしていた。

神城は歯を押し返して必死に抵抗を試みるが、疲弊しきった状態で全力を出すことなど到底無理だった。
ぬめっと唾が糸を引く暗い口内を目の前にした神城は、人間一人の生物個体としての弱さを嘆き、だから群れをつくって力を集結させたが、それも消えたことを更に嘆いた。
直後、変異体は神城を放り出し、もっと楽に喰える方にターゲットを変えて動き出した。
変異体が進んでいった方向で察しないわけにはいかなくなった神城が這って来た道を戻ると、早くも自衛隊員たちの遺体がおやつのように噛み砕かれ始めていた。

満足に声を出すこともできず、神城は見ていることしかできない。
そうこうしているうちに淀川も掴み上げられ、血塗れの口に放り込まれようとした。
神城はつい先日のことを思い出した。
淀川が晴輝や香里たちを助けて初めて会った時の思い出話。
晴輝を助け、後を託せる精悍な青年へと成長してくれて良かったと笑顔を見せた淀川。
尖っていた淀川を知っている神城はかなりの丸くなり具合を微笑ましく感じたものだが、その尊敬する先輩は弔われることなく噛み砕かれてしまった。

神城はまた人間の弱さを噛みしめた。
淀川から遺志を継ぎ、自分から次に託せるのは晴輝。
屍を越えて次に次にと受け継がれていき、群れという個体を次代に繋いでいく。
神城は人生の終わりを受け入れた。
また雑に掴まれて身体が軋む中、変異体は神城を喰う前に蓮華も掴み上げ、男女の違いが分かるのかさもおいしそうに涎を垂らした。

ぶらんと揺れる蓮華の身体はぱっくり開いた変異体の中に飲み込まれ、一瞬で姿が消えてしまった。
神城は彼女が消えゆく様をしっかり見届け、人を越える力が欲しいと願った。
たった一人で何物をも凌駕する圧倒的な個の力。
老いにも毒にも保菌者にも負けない、圧倒的な力が欲しい、寄越せと何かに願った。
しかし願いも空しく、神城も噛み砕かれてしまうのだった。

感想
インフェクション162話163話164話でした。
いよいよ新天地で希望に満ちた日々がスタートするかと思われた矢先に、非情なる明石退場劇。
ただ、蓮華や淀川、神城までいなくなったのなら、女子大生の片方がいなくなる展開も許容範囲でしょうか。
https://www.kuroneko0920.com/archives/67215





























