184話
睡眠薬を飲み、眠気に襲われ始めたらぎ姉をお姫様抱っこで抱き上げた彼は、ながみんに扉を開けてくれるよう頼み、寝室のベッドまで運んだ。
男女の機微が分からず完全に蚊帳の外のながみんはジッと二人の様子を見るが、何も言わずにドアを閉めて二人きりにした。
彼はもう歩けないほど眠いのに化粧直しをしたいと願うらぎ姉に笑みが零れた。
その呆れた笑いこそ愛おしく、寝顔を見続けられるのだからできる限り綺麗でいたい女心なんだと笑顔を返すらぎ姉は、間近に死が迫っているとは思えないほど落ち着いていて、だらしない寝顔の心配をするばかり。
そして伸ばされた手を取った彼は頬に当てた。

穏やかに見上げるらぎ姉は、穏やかだった頃の学校を思い浮かべ、始めはあだ名らしく姉っぽく守ってあげたいと思っており、いつの間にか引っ張られる立場になってからは、手を引かれるのが楽しみになったという。
喋るのもかなり体力を使うのか、ほんの少しの言葉を綴るだけで抗い切れない眠気に襲われるらぎ姉。
意識はぼんやりしていき、握り返す力も込められないのに、いよいよその時が近づいて来ると話したいことが嫌がらせのように湧いてくる。
だから彼は安心して眠れるよう、起きたらたくさん話そうと声をかけた。

目を閉じたらぎ姉。
仮死とはいえ、生命活動が止まっているようには見えない。
何もできなかった彼が悔しくて歯を食いしばった直後、らぎ姉はコントのように目を開けると、何事かを独り言ち始めた。
愛し合う彼と幸せを創った後、手を握られながらの穏やかな眠り。
これが本当の幸せかも知れないと漏らした後、今度こそ本当に目を閉じたのだった。

握っていた手を放し、シーツをかけた彼は覚悟が決まった。
昨晩から一睡もしていないのに消防服を着た彼は、ながみんの心配をよそに日没まで探索してくると伝え、さっさと出かけて行った。
優先すべきはらぎ姉を復活させること。
そのためには犯人を殺してでも特効薬を手に入れると心に決めたのだった。

一方、息子に殺意を抱かれた渚は紗月の母の明菜とお茶をしていたところだった。
山形の集落を占拠した避難民たちの動向を追うニュース映像に紗月が映ったことで娘の無事を確認できた明菜はホッと一安心できていたのだが、彼女以上に渚は何度も喜んでいた。

まさかこの未曽有の事件を起こした張本人が渚とは思いもしていない明菜は、変わらず友人として一緒にいてくれたことに感謝を伝えた。
渚は白々しくそれを受け取ると、愛していると唐突に告白した。
しかしその言葉は明菜にとってお茶らけた親友からの親愛程度のもので、この歳になって言われるのは新鮮ではあった。
そうしてノスタルジーに浸る明菜からお礼を言われた渚は、愛している人だからこそ残酷な現実が分からないように、不意打ちで気絶させたのだった。
そしてベッドに運び、お休みとお別れを告げた。

外に出た渚はグッと伸びをすると、清々しい表情で空に向かって話しかけた。































