190話
山形市内でも仙台と同じように保菌者パニックが起こっていた。
近所の爺さんがウジ虫を撒き散らしながらよろよろと近づいてくるので、一家はもう助けられないと判断し、逃げることにした。
しかし、建物の陰から出て来た保菌者に祖父が噛みつかれ、一家の大黒柱になっている息子は父親の無残な最期に絶叫した。
市内の学校でも、晴輝たちが直面したのと同じように同級生たちによる襲撃で悲しみに暮れる若者たちがいた。
セーラー服の少女は彼氏が保菌者に喰いちぎられていくのを目の当たりにし、逃げる気力さえ失っていく。

口元にほくろがある同級生男子に促されても、どこにも逃げ場はないと諦め、せめて最期は彼氏の傍で迎えようと覚悟を決めた。
突然のゾンビ大感染に直面した彼らはあまりに無力で、また一人の少女が非業の死を遂げようとした。

直後、ほくろ少年の助けを求める願いが届き、躍りかかってきた保菌者は矢に射抜かれた。
開いた窓から飛び込んできただろう矢の先には、バスの大群と屋根に乗った山田がヒーロー然として弓を構えていた。
自分と同じ立場だからか、拠点にするのに良い建物だからか、まずこの高校に馳せ参じた紗月は拡声器で同年代の少年少女たちに、自分たちは隔離地域から来た生還者に構成された救助隊だと声をかけた。

もちろん救助隊は各所に散らばり、市民たちを次々に助けていた。
紗月の言葉に感化された太もみあげ隊員は、目の前で祖父を喰い殺された一家を助けたが、神妙な面持ちで息子にある話を持ちかけた。
そしてあっという間に高校を安全な状態にした紗月率いる救助隊。
高校生たちは自分たちと変わらない女子高生の堂々たる指揮官っぷりに驚き、感心し、カメラマンまでいることにまるでパニック映画のロケのようだと感じ、そうであったらどんなに良かったかと非情な現実に涙した。
ともあれ紗月は、友達や彼氏彼女を失ったであろう彼らに、これから最も大事な話をする必要があった。

その後、ほくろ少年はインタビューに答えることになった。
武器を与えられ、救助隊に参加したほくろ少年はもう絶望しかけていた時の悲壮な雰囲気は消え、自分でも恐怖に打ち勝つ保菌者相手に戦える力があることを実感し、活き活きとしていた。
それが分かったのも、紗月の言葉のおかげだと屈託ない笑顔で答えた。
目の前で父を殺された息子も、普通の女の子にしか見えない紗月が救助隊を組織し、背中を押し、率いてやって来たと知った時には驚いたと語った。
そして、数十万人の命を救った彼女はかつてない英雄だろうと、嬉しそうに話した。
もう一人、目の前で彼氏を喰い殺された少女はまだ沈鬱な表情のまま、男に媚びるあざといタイプだろう同い年の紗月は嫌いなタイプだとはっきり言い切り、そんな女子が言葉で人々に希望を見出させたのは怖いという。
本来は英雄とはかけ離れた性質だったはずの女子が、たった一カ月の隔離地域の生活で数十万人を助けるために救助隊を率いてくるようになるなんて、どんな経験をしたのだろうかと思うと怖さしかないという。
ただ、自分も同じように強くなれるかも知れないと思うと、紗月は暗闇の中の光に見えると答えた。

もみあげ隊員もインタビューに答えていた。
紗月が考えたのは雪玉作戦。
雪玉を転がして徐々に大きくしていくのと同じように、行く先々で助けた人の中から厳選して救助隊に誘い、戦える仲間を増やしていく。
懸念材料は上手く救助隊に加わってくれるかだったが、自分が紗月に胸熱くさせられたように、山形市民も存外すんなり共感して仲間に加わってくれたことから、これこそ紗月が起こした感染だと語る。

意気揚々と市内中心部に突入する部隊と行動していた紗月は、馬見ヶ崎橋を越えて進み続けた。








































