131話
即断即決で自分が指揮する部隊と合流した彼は、裏切り者が小早川であることをかいつまんで説明し始めた。
小早川から感じられた螢への想いはあくまで恋愛感情のそれだと思っていた。
ただ電話の相手が螢ではなく犯人にすり替わっていたのなら、恋心を利用した洗脳に他ならない。
小早川の気持ちを掴んでいつでも手駒として動かせるように維持し、秋保実験を滞りなく進行させる役割を担わせていた。
そして最重要標的は人智を超えた戦闘力を持つ神城の殺害であり、間違いなく殺すために毒ガスを使うはずだと、彼は見抜いていた。
もし計画が失敗に終わるとしたら、小早川が偽物の甘言に惑わされない場合だけだった。
その頃小早川は部下たちが信頼してくれていたと知って混乱し、最も近くにいた郷田の言葉もそれ以上耳に入っていなかった。

螢に指示された時のことを改めて思い出してみる。
毒ガスが詰められたタンクをリモコンで作動させ、部下の自衛隊員や淀川たちを死に至らしめろと言われた時、小早川はさすがに死んでしまうと言い返した。
すると偽螢はあっさり認め、多くの国民を守るための仕方ない犠牲であり、彼らも喜んで死を受け入れるはずだと無理やりな理屈をこね繰り出した。
それでも小早川は決断するに至らず、断るための言葉を搾り出そうとした。
だがその前に偽螢は考える暇を与えず、彼女が欲している言葉を続けた。
お互いが一番理解し合える相手。
全て終わったら、二人きりで会いたい。
「愛してるよ」

正常な判断をする平常心を奪われた小早川は郷田の言葉をスルーし続け、遠からず会えるはずの愛しい人に思いを馳せ、トリップした。
急に呆けた表情に変わったのを郷田は心配し声をかけるが、小早川はもう部下たちの死と愛を天秤にかけさえしなかった。
ふと我に返った小早川は、手に隠し持っていたリモコンが見えるのも構わず席につくよう促した。

程なく螢が殺されたというニュースが流れ、場は騒然となっていく。
米大統領の会見まで始まって理解が追いつかない彼らを尻目に外に出た小早川はきっちり外から鍵を閉め、指示通りに建物から距離を取った。
そして偽螢への愛を込め、部下や消防士を殺すリモコンのスイッチを押した。

直後、タンクから毒ガスが噴射され、瞬く間に建物の中は外から見えなくなるほどガスが充満した。
それを確認した小早川はリモコンを捨てて、全力で走り出した。
この判断は自衛官として間違っていない。
螢の言うように、多くの国民を守る選択なのだからこれでいいはずだと言い聞かせながら走った。
しかし、実際スイッチを押して走り冷静さを取り戻すと、すぐに自分がとんでもない行動を犯したことが理解でき、脂汗が浮き出してきた。

すると嫌でも思い出すのは、経済的に苦しんでいた母を助けるため、給料がもらえる防衛大学に入ろうと決めた日から、ついさっきの郷田の姿までだった。






























