145話
自問自答の末に一人目を手にかけた彼に、もう迷いはなかった。
二人目を仕留めに悠々と木々の間をすり抜けていく彼の背中を見ていた紗月は、自分なら何かしてあげられることがあるはずだと考えていた。
紗月に長く強く想われている彼は、気配に気づかれ銃口を向けられたが、射線上をゆらりと躱して的確に急所を切り裂いた。

血飛沫があがっても、最早一仕事片付いたくらいの溜息一つだけを漏らし、全く感傷に浸る様子もなくなっていた。
それでも紗月は、よく知っている彼が人を殺めて平気なはずがないと信じた。
慰め、励まし、傷を癒す言葉。
それをかけることが、自分が今ここにいる意味だと思い、笑顔で次のターゲットの場所に先導する彼の後に続き、必死で考え続けた。
しかし良い言葉が思いつかないまま、三人四人五人とあっさり過ぎるほどに格上の暗殺技術でスナイパーを仕留めていく。
残り一人になっても、彼は笑顔を絶やさず学校に出かけるような表情で離れていった。
全く役に立っていない紗月が沈み込んでいると、松谷たちも歯がゆさを感じていたようで、同じように無力さを嘆いた。

紗月が共感を覚えたその時、紗月を隊長の彼女だと思っている松谷は謝りたいことがあると切り出して話しかけてきた。
隊長は立派な戦士でも紗月たちといる時は同年代の少年の顔をしている。
だから、自分たち大人が不甲斐ないせいで無理やり強くさせてしまったことに対して申し訳ないと謝罪し、できれば彼も含めて少年少女たちは先に逃げて欲しいと思っていることを明かした。
それでも彼に頼るしかないから、最後まで一緒に戦うつもりだと決意表明した。
そんなことを言われても意味が分からない紗月が疑問を投げかけると、松谷は彼女が同行することになった理由を打ち明けた。

多くの者に心配と信頼をされている彼は、実戦を通して神城にされた訓練が身についていることを実感していた。
落ち葉や枝でふかふかに堆積している地面を踏みしめても、まるで足音がしない忍者のような隠密歩行。
人体について学ぶことで、敵の殺し方、自分の身体の動かし方を熟知した彼は、あり得ない無音歩行で全く気付かれずに最後の一人の背後を取ることができた。

そしてうなじから首を貫き、相手が何も分からないままあの世に送った。
連続殺人を完了すると、彼はやはり振り返ることなくらぎ姉に連絡し、スナイパーを全員排除したと報告した。
らぎ姉も淡々と了解と返し、ホテル駐車場チームに伝えて安全を確認次第、順次バスを出発させるという。
ただ彼がまだ仕事をやり切ってない風なので、らぎ姉は気にせず感情を爆発させてもいいぞと促した。
それをしてしまえば心が折れるかも知れない彼は、穏やかに遠慮した。































