27話
萌は妊娠検査薬で何度も試した。
何回も見た。
それでも結果は変わらず、便座に座った状態で現実を受け入れるしかなかった。

萌は家賃の安さだけが売りの団地に、どうしようもないヤンキー弟と二人で暮らしていた。
保護司のお世話になるほど反社会的な弟への小言が自然と多くなるのも、シングルマザーの母親が男の所に入り浸って家に寄りつかないからだった。
まるで言うことを聞かない弟にストレスを感じる中、萌は妊娠を知った。
それでもガールズバーの勤務中、正隆からのメッセージを読むと自然と顔がにやけた。
同僚の子も不倫恋愛していることは知っていて、萌がここ最近頻繁に連絡を取り合っているのを横目に、真っ当に幸せになれない恋愛なんて止めておけと諭した。
タイミングを見て奥さんとは別れると言っている。
それはダメ男の典型的な台詞だと言い返す同僚。
真っ当なアドバイスだと分かっても、萌はみるみる気分を悪くした。

正隆の言葉が真実かどうかなど本人しか分からない以上、好きになってしまっている萌は誰の忠告も聞き入れるつもりはなかった。
二人の間に少しピリついた空気が流れた直後、珍しく早い時間に佐野が顔を出しに来た。
閑古鳥が鳴いている店内を見た佐野は舌打ちを一つ、スマホばかりいじっている彼女たちに掃除なり呼び込みなりしろとイラつきながら指示すると、かかってきた電話の相手には腰低く対応し始めた。
キャストの間ではもう噂になっていた。
佐野は借金を抱え、その筋から詰め寄られているらしいと。
仕事終わりにファミレスで正隆と待ち合わせた萌は、さっそく店がそろそろ閉店になるかもしれないことを話しながら、パフェに舌鼓を打ち始める。
それよりも中絶に関して親の同意が取れているのか気になる正隆は、明らかに焦りを見せるも、若くて可愛い子にあ~んとされたら簡単にデレデレになるほどちょろかった。

だから萌も真面目に、別れると言っていたタイミングは一体いつ来るのか訊ねた。
話しかけることなど皆無な正隆にそんな重要な話を切り出す予定などなく、あからさまに挙動不審になった彼はメニューに目を落とし、話を逸らした。
もう中絶することで納得している萌はただ、正隆が裏切らないことだけを願っていた。

後日、正隆からの返事がなかなか返ってこないことに不安を募らせた萌は、やっぱり自分は遊びなのか、妊娠発覚で日和ったのか、奥さんと仲直りして子作りに励んでいるのか…
そんな想像を膨らませながら帰り道を歩いてラブホの前を通りかかったその時、正隆の妻が男と出てくるのを目撃したのだった。
あまりの驚きに数秒ボーっと眺めてから、急いで不倫の証拠を収めようとカメラを起動するが間に合わず、取りあえず男の顔だけしっかり目に焼き付けた。
そして急いで雪映の後を尾行し、衝撃のW不倫に憎しみを湧き上がらせながらひたひたと歩みを進めていく。
正隆は知っているのか?
知らないから離婚に踏み切れないでいるのか?
愛し合っていないのならさっさと離婚して、愛してもらえている自分に彼を渡して欲しい。

雪映が正隆を雁字搦めにしていると決めつけた萌はその目に闇を宿し、自分で自分の未来を切り拓くことにした。
雪映の自宅まで尾行し、玄関に入る直前で声をかけた時、萌は正義を執行する気分に浸っていた。

































