28話
ひたひたと雪映の後をつけた萌は玄関に入ろうとしたところで声をかけた。
ホテルから出てくるところを見たのをさっぱりと暴露し、まさかの驚きだと朗らかに世間話でもするかのように語り出す。
しかし、男について口に出した瞬間、顔に憎しみが飛び出した。

旦那は知っているのか問い詰めても、雪映ははいともいいえとも答えず、ただ何の用かと返した。
それで正隆との不倫がバレていると察した萌は、遠慮なく最善だと思っている道を提示した。
自分と正隆、雪映と若い大学生。
そのカップルに収まり、離婚に応じて欲しいと詰め寄る。
真実を知らされていないと分かった雪映は、迫りくる真っすぐな女の子を静かに見下ろした。

そして可愛いと評し、小バカにした。
夫婦にしか分からないことがあるのだと、さもそれなりに良好であるかのように微笑んだ雪映は大人の余裕を見せるため、気を付けて帰りなさいと言葉だけで気遣い、優位な立場を崩さなかった。
翌早朝。
萌はダイニングにぽつねんと座り、ずっと雪映の言葉を反芻して言い返していた。
そうして結論を出したところで弟がバタバタと帰ってくると、自分に言い聞かせるように伝えておいた。
正隆から愛されているのは自分だと証明するため、妊娠している子供を産むからと。
その日の夜、予定を早めてもう中絶したと嘘のメッセージを送り、正隆と会う段取りをつけようとした。
時刻は店仕舞いの頃だが、もう帰ろうとかという時にあまりに少ない売り上げで佐野が酔いに任せて怒りだし、萌が客に奢らせなかったことを咎めた。
暴力、暴言、気に入らないことがあるとあっさり本性を現わす佐野を恐れ、同僚がさっさと帰り、萌も後に続こうとすると、佐野は不倫相手とまだ続いているのか訊いてきた。
かつては萌と男女の仲にあった佐野は、店の不景気を形振り構わず解消するためにいやらしく顔を寄せ不倫相手から金を引っ張って来いと、半ば強制的に迫った。

一度は抱いた女、どうとでもほだせる。
そんな目論見はあっさり覆され、萌はきっぱり断り、佐野の下心も拒絶した。
そうすれば佐野はまた怒り狂って手を上げ、また暴言も吐きつけた。
萌の周りはどうしようもないクズ男ばかり。
ここが切り時だと思った萌は辞めると言い放ち、店を飛び出した。
結局今夜は正隆と会えず、後日、一方的に別れを切り出された。
自分だけ本気だったと知った萌は悲しみに暮れると、電線に切断された夕空を眺め、風に吹かれた。
お腹に宿ったばかりの命に母親の都合で終わらせてしまうことを謝り、柵を乗り越えようとした。

その時、引き止めるように電話が鳴った。
警察からかかってきた電話で署に着くと、またトラブルを起こした弟の代わりに頭を下げ、母の代わりに来てくれた保護司にも礼を言っている間に、命を断とうとした決意が少しずつ有耶無耶になっていく。
駆けつけてから一言も謝らない弟のキレた理由が家族をバカにされたからと知ると、クズ男たちに人生を振り回されてばかりのすり減った心に、少し温もりが戻るようだった。
弟も働き始め、前に進んでいる。
萌は少しは真面目で可愛い所もある弟のバイクにノーヘルで乗せてもらい、大声じゃないと会話できずに大声を出したおかげか、決意を改めることにした。

捨てられて自暴自棄になりできた死ぬ覚悟を、シングルマザーでも生き抜く覚悟に変えたのだった。
感想
ただ離婚してないだけ5巻にて完結です。
面白度☆7 蛇足度☆7
警察の圧力に負けた正隆が自供を始めるのかと思いましたが、まず一拍置くのか、まさかのイフストーリーとは。
全ての罪が明るみになって何年後とか、子供がどうなったのかとか見たかったですね。
最終巻はボリュームたっぷりここまでで半分です。
https://www.kuroneko0920.com/archives/65204

































