185話
彼は母親とはもう思わず、最後に犯人を見たあの地下研究所崩壊痕にやって来た。
もし研究所に入れるなら、手がかりなり特効薬に関する何かが見つかる可能性を思ってのことだった。
その頃、山形に避難した山田は、関に明石の仇討についてどうするか訊ねていた。
山田はいくらでも協力するつもりでいるが、人智を越えた科学力を持つ犯人を倒せる方法なんておいそれと思いつけるはずがない。
それでも関は、何が何でも犯人に然るべき報いを受けさせるつもりだった。

避難民を代表する二人が復讐の炎を小さく内に秘めているのはいいが、この場所が全国放送されたことにより身勝手な正義感に駆られた者たちが罵詈雑言を浴びせに集結していた。
個人的に被害を受けた訳でもない奴らがわざわざ全国各地から集まり、自分たちが間違いない正義だと思い込み、避難民を犯罪者呼ばわりして隔離地域へのとんぼ返りを声高に叫んでいた。

そうして一方からしか物事を見ない意見が世界の総意であるように電波で垂れ流されると、何の責任も負わないコメンテーターも熱くなり、同じ被害者でも避難民は悪だと断罪し始めた。
隔離地域外での国会議員を狙ったテロ、テロ犯にされた男性への市民による暴行殺人。
それらが全て避難民たちに責任の一端があるかのように捲し立て、大人しく隔離地域内で止まっておくべきだと持論を展開。
完璧に犯罪者集団扱いする過激な論調からまた中継に切り替わると、今度は抗議者の一人がレポーターからマイクを奪い取り、避難民を悪魔呼ばわりして死ねと罵ったのだ。

まだ何の被害もないものが、恐怖と怒りで正義を捏造し死ねと望む声を発する。
それこそ、避難民にとっては悪魔の叫びだった。
逃げても全く安心できない状況の中、クレーターにいた彼は大きな地震に遭っていた。
いやそれは地面の揺れは揺れでも、巨大な香里が動き出したからだった。
保菌者騒動が起こって一カ月、いよいよ世界中に感染が広がろうとしていた。

香里の巨像が動き出して間もなく、渚の声が文字通り世界中の人間の頭に届いた。
相変わらずどこにでもいる明るい中年おばさんのような気安い喋り方。
直接頭に届けられる声は、言語の壁どころか言語でコミュニケーションを取らない部族にも響く音の意味を理解させていた。
ただし、晴輝やながみんなど隔離地域内の者には妨害の何かで聞こえないらしく、彼は何が始まろうとしているのかさっぱり分からない状態だった。
そして渚は声の主が保菌者騒動の犯人であることを匂わせてから、隔離地域外にいても無関係ではないと宣言した。

両手を上げていく香里の巨像。
ここを目指すのも良し、ただ問いについての答えを考え続けろという。
ほぼ全人類に語り掛ける声は、世界にとって何も価値がなくてもそれぞれにとって一番大切な自分の人生の意味について考えろと問うた。
そして香里の巨像は、何かを世界中に飛ばした。

感想
インフェクション183話184話185話でした。
いやはやあのホテル以来のらぎ姉の乱れっぷりでした。
ながみんが助かっていることに、何か大きな意味がある気がします。
https://www.kuroneko0920.com/archives/72272
































