187話
巨大な香里像があやとりのように指先から何かを伸ばして動くも、その意味がさっぱり分からない晴輝。
クレーターの淵から眺めていた高木は外で感染が起こり始め、渚の声が全世界に届けられたのだろうと分かったが、それが分からない彼を不憫に思った。
皮肉にも隔離地域内が世界で一番安全になった現状を知らぬ彼は、世界で一番憐れかも知れなかった。
その頃、なりたての保菌者たちを打ち倒した紗月は堂々と嘘八百を並べ立て、精鋭部隊隊長の言葉だとうそぶき、勝手に隊長代行になると全国に向けて発信した。

そんなこと初耳の隊員たちが慌ててデモ隊で混乱している現場に行くと、デモ隊はすかさず隊員たちに食って掛かり、この保菌者への変異の責任を擦り付けてきた。
冷静に考えることを止め、その場の怒り任せに同じ被害者を罵り、憎み、何も知らず何も分からないのにまた悪魔呼ばわりして罪を着せようとする。

さすがに濡れ衣が酷いので隊員は世界中で起きていることだと説明し、同じく犯人の声が頭に響いたはずだと指摘した。
そう言われたら頷くしかないデモ野郎は、保菌者になりたての連中を躊躇なく打ち倒していった紗月を指差し、どうかしていると責め立てた。
そう言われても、隊員たちも紗月に関して知っていることは少なかった。
隊員たちが雁首揃えてぞろぞろやって来ると、紗月は満面の笑みでこれから指揮を執らせてもらうときっぱり言い切った。

そう言われても、隊員たちは隊長が代行に指名したなんて俄かには信じられないが、しかしらぎ姉が類稀なる有能な女の子だったのを考えると、ない話ではないかも知れないと思えてくる。
嘘を並べ立てている紗月は信用されるか否かの状況にドキドキしながら、自分にある有効な武器が彼の彼女という肩書しかないことを空しく思ったが、今は割り切るしかなかった。
しかし肩書を利用して指揮権を掠め取ろうと思い立ったのが今日であり、彼の彼女という印象もまだまだ薄い状態だった。
それでも決意したからにはやるしかなく、こみ上げる恐怖心を抑え込んでバットを握り、保菌者を打ち倒していったのだった。
それも全て彼を助けてよりよい未来を築くため。

そして強引に指示に従ってもらおうとしたその時、現状、最も信頼されている山田と関が駆けつけた。
頼りになるが今の紗月にとって御しがたい二人で、特に非情な面がある山田のねちっこさは口先だけでどうにかなる感じじゃない。
それでも嘘はもう突き通すしかなく、堂々と隊長代行に指名されていると言い切った。
すると関は完全に嘘だと言い返し、隊長と共に戦ったからこそ紗月を危険なポジションに置くはずがないと説得力抜群で嘘を論破した。

関はそこで紗月の嘘問題は横に置き、隊員たちに危険を犯して救助に回るか、バリケードを強化して仲間たちの安全を確保するか選ばせた。
すると隊員は悪魔だ何だと散々罵ってきた奴らに冷たい目を向け、仲間を優先した。
関はその選択を受け入れ、さっそくここも外界と道を分断して隔離しようと指示するのだった。


































