キスやチューと口にするのは恥ずかしいらしいキャシアは口づけで治まったと言いながらボタンを留め、またクールな態度で背中を向ける。
アルクはウェンヌや獣人と比べて圧倒的な自制心に、畏怖の念を抱いた。

ボタンを留めるのは谷間が見える真ん中辺りまでだとしても、それはあくまでキャシアのファッション感覚のようで扇情目的ではなさそうだった。
今後の話は明日だと言い置いて出て行ったキャシア。
アルクはドッと倒れ、キャシアの胆力に恐れ入った。
ここは小さなコーザ王国王都。
街の周囲をぐるりと外壁で囲み、その周りは更に岩山に囲まれていて、敵の攻撃には対処しやすそうな構造をしていたが、あちこちで火が上がり昼間のように明るくなっていた。
帝国に攻められ、住人たちは為すすべなく略奪されていた。
小さな子供が泣き叫んでいる横を騎士たちが悠然と通り過ぎる光景は、世の無情を表していた。

王都から少し離れた岩山で黒煙を眺めているのは、ジジイかババアかぱっと見分からないTHE魔法使いと、ダンディな雰囲気を醸す初老の騎士。
立場的に魔法使いが上司らしく、初老騎士はコーザ王を捕らえ、完全制圧まで時間の問題だと報告すると、魔法使いは王族の女は皇帝陛下への献上品だと釘を刺し、手を出さないよう言い含めた。

初老騎士が恭しく承知すると、魔法使いは陛下への報告のために一足早く帰ることにし、ブツブツと呪文を唱えた。
すると地面からうねうねと何かが飛び出し、それがゲートのように形を形成すると魔法使いを球体状に包み込んだ。
お辞儀した初老騎士が顔を上げた時には、球体も魔法使いの姿も消え失せていた。
場所は帝国城内の寝室、散々イカされまくったのか数人の女性たちがピクリともせずベッドの上で汗ばんだ身体を投げ出していた。

いい運動をした後の陛下が喉を潤しながら外を眺めているところに戻ってきた魔法使いは、たくましい背中に向けて声をかけ、コーザ王国陥落を滞りなく済ませたことと、北国で起きた魔力の爆発について進言した。
魔法使いはキャシアを雌虎と嘲り呼び、魔獣と戦っているんだろうと予測すると、陛下は壁建設の進捗を気にした。
壁とは瘴気をシャットアウトする魔法の壁であり、帝国が世界征服を果たすための最重要ポイントだった。

地中より溢れ出す瘴気、死んでいく男たち、残された女たちに襲いかかる魔獣。
瞬く間に国力を失った国を攻め滅ぼし、手に入れる。
それが帝国のやり方だった。
サスカッチ戦後の村を歩いていたアルクとキャシア。
あちこち家屋が倒壊、半壊の無残な姿をさらしていたが、村人は炊き出しを行うなどしてメインストリートに集まり、活気を取り戻そうとしていた。
そこにキャシアを見つけた女児は大はしゃぎで駆け寄り、モンスター討伐のお礼をちゃんと伝えると、キャシアも優しい表情で頭を撫でてあげた。

そして、モンスターと瘴気の被害で打ちひしがれている村人たちに励ましの言葉をかけ、姫も日夜祈りを捧げていると伝えた。
それだけで、涙もろい老婦人は涙を流した。
全住民から慕われているらしいキャシアは、女の嫉妬の矛先にされることもなく、若い女性からも羨望の眼差しを受け、面映ゆい思いをしていた。
さて、さっきまでの話に戻したキャシアは、なぜマハトについて簡単に暴露したのか問い質した。
騎士の顔以外は割とウブな可愛い女の子なキャシアを軽くからかって赤面させたアルクは、いずれは自力でマハトの仕組みについて理解するだろうことを見越し、信用を得るためにあえて先に全て話したのだと説明した。
そこまであけすけな理由でも、キャシアは悪い気はしなかった。



































