20話
両親にさえ見放されていた千歌は、外国にいるはずの兄が会いに来てくれるとは思いもよらず、嬉しすぎるサプライズに涙を滲ませた。
しかし、久しぶりの再会がこんなアクリル板越しでなかったら、もっと嬉しかった。
道隆はすぐに連絡をくれれば良かったのにと伝えるが、父に心無いことを言われた彼女は、連絡したら迷惑がかかると思ってできなかった。
改めて、あの事件の時に記憶がなかったのか訊くと、それは間違いないようだった。
気づいたら血だらけでレイプ犯と先輩たちが倒れていた。
調書と彼女の言葉はなんら変わる所がなさそうなのが分かった。
少し恥ずかしそうに俯く妹に、彼は「それだけ聞ければ充分だ」と答えた。
そして、必ずここから出してやると言った。
しかし、実際に犯行のビデオを見せられている彼女は、自分が人を殺してしまった事を知っているので無理だよと言うしかなかった。
それを彼は否定した。
ちゃんとした裁判を受けていないのは明らかで、新たな証拠を見つければ再審請求で裁判をやり直す事も可能だと教えてやった。
吾妻を気にして、彼はまだ重要な部分は話さないでいた。
希望を取り戻した彼女と透明な板越しに手を合わせ、自分を信じて頑張れと励ます。
慕う兄にそう言われた彼女は、「うん」とだけ答えた。
もちろん所長は、刑務所始まって以来の初めての面会者をチェックしていた。
クサイ台詞で希望を持たせようとしたのを鼻で笑いながら、薬を数錠飲み込む。
そしてすぐに、千歌のお漏らしパンツを鼻に近づけ、それが最高の嗜好品であるかのように漂う臭いを吸いこんだ。
しかし、独自にこの孤島にある刑務所まで辿り着いた道隆を無視するわけにはいかなかった。
本来、受刑者がどこの刑務所に収監されているかは家族でさえも知らされない。
だから、探ろうとする方法はあるにはあるが、受刑者からの手紙などが返ってきて初めて居場所が分かるようになっている。
ツテを使ったと言っていた道隆。
所長は異臭がするであろう千歌の下着が鼻に触れんばかりに近づけながら、匂うぞと考えた。
さっそくどこかに電話をかけ、彼に監視をつけるように手配した。
そこまで警戒されてしまっていることを知ってか知らずか、彼は既に刑務所の敷地内から外に出ていた。
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