35話
結局若い両親と陽史で病院に向かうことにしたが、外はタイミング悪く強い風が吹き荒れていた。
優吾は実花を抱く役を変わろうと言うが、美月はありがとうと感謝しながらも自分の腕に抱き続けた。
小枝が飛んできたのを陽史が弾き飛ばした直後、音に驚いたのか目にゴミでも入ったのか実花が泣き出したので、彼は強引に奪ってひとっ走り先に実花を連れて行った。
残された父親の優吾は、自分に抱かせず弟に抱かせたことに苛立ち、その理由を問い質そうとするが、我が子が苦しんでいる時にそんな問答をしたくなかった美月は軽くあしらい、先に一人で追いかけようとした。

すると、美月に捨てられる、呆れられる、嫌われる。
そんなことを考えて怖くなった優吾は縋り付いて謝った。
それも煩わしかった美月は、早く行こうと返すだけだった。
実花は思ったより悪いらしく、5日間入院することになった。
赤ちゃんの両親がまだ高校生の年齢だと分かると、看護師たちはすぐにひそひそと囁き始めるが、武藤という中年の看護師だけは鋭い目つきで美月を睨みつけた。
もうできることもなく、後から優衣が来ることになって付き添いが美月一人で十分だから優吾に帰ろうと陽史が促すも、彼は美月にお伺いを立てないとそれすらも決断できないほど、実花ではなく美月ばかり気にしていた。
兄弟が帰った後、また泣き出した我が子を見た美月は、ママがパパに冷たい態度を取っているのが伝わっている気がして、嫌いになったわけじゃないんだと言い訳した。

いつの間にか美月が寝入った頃、看護師の武藤が音を殺して部屋に入り、美月の顔をしっかり確認して確信を得た。
武藤はかつて美月にストーカーし、あの火事で命を落とした男の母親だった。
世間では男がストーカー殺人の末に放火までしたことになっているが、武藤は息子が薫に殺されたと信じていた。
今更行方不明の薫を探し出して追及する気もないが、美月が薫の娘だと分かった以上、幸せになるところを見たくなかったのだ。

武藤はまず実花を連れ去ろうと抱きかかえた。
直後、様子を見に来た優衣が見咎めた。
武藤は咄嗟に感染症発覚で病室を移ることになったとごまかすが、こんな夜中に母親を寝かせたままたった一人ですることに疑問を抱き、美月を起こした。
そして実花が他人に抱かれているのを見た美月は危険を察知し、大声で返してと叫んだ。
我が子を守ろうとする本能に気圧された武藤はなりふり構わず部屋から逃げ出し、同僚が押していたカートからハサミを奪い、実花に突きつけた。

優衣もあの事件を思い出して、家を失った美月も被害者だと諭そうとするが、覚悟を決めた武藤に声は届いていないようだった。
それでも、さすがに赤ん坊を手にかけるつもりはないように見えた。
それに賭けた優衣は、あの時男に話しかけたのと同じように、穏やかに語りかけ始めた。
あの男は確かにストーカー的行動に出たが、話せば優しさが伝わるいい子だと分かったので、美月が家族から虐げられていることを伝えると共感して悲しみ、そしてあの火事の夜に命をかけて美月を救い出したのだと伝えた。
息子の無実を知った武藤は泣き崩れ、実花を優衣に渡そうとした。
直後、いきなり電気が切れて真っ暗闇になった。
束の間のパニックの末に程なく電気がついたが、誰かに何かで切られたのか武藤が首筋から大量に出血していた。
そして、実花が誰かに連れ去られていたのだった。




































