36話
探偵業を始めたのか、陽史は車でラブホの前に張り込み、該当人物が出て来た時刻を確認した。
直後、横断歩道を渡る女性の笑い声が耳に入り、何気なくそっちを見た。
笑っているのは赤ちゃん連れの二人組の母親だった。
陽史は万が一と思い、自然と二人の赤ちゃんの顔を確認したが、早々都合よく、その子のどちらかが実花であるはずもなかった。
陽史が久しぶりに家に帰っても、優衣は頭を抱えて項垂れている。
美月によればろくにご飯もたべていないようで、ずっと実花が連れ去られた責任を感じて塞ぎ込んでいるらしい。

直後、ついにストレスと体力的に限界を迎えたのか、優衣は倒れてしまうのだった。
病院のベッドで目を覚ました優衣は、優吾がまだ小学生であるかのように帰りが遅いと心配し始めた。
これ以上自分で自分を追い詰めないための防衛本能なのか、優吾が親戚の家に下宿しながら大学に通っていることや、実花のことも忘れてしまっているようだった。

義父は美月の人生を慮り、優吾のところに行って自分の好きなように人生を歩めと促した。
そう言われても、今まで流れに乗って来ただけの美月は人生の選択肢など、そう簡単に浮かばなかった。
自分がいなくなったら寂しいかどうか陽史に訊いても、本音かどうか、優吾が悲しむ姿だけは見たくないと答えた。
それで美月は、自分たち二人が無理やり優吾を冒険の遊びに連れ出した時のことを思い出した。
二人の後を必死に追いかけた優吾は木の根で転んでしまい、片目に重傷を負って片方の光を失った。

子供ながらに、ずっと今までそれが自分たちの罪だと感じていた美月は、今はまた、実花が目の前からいなくなって、優吾への罪悪感を増していた。
美月は実花の行方が全く知れないことから、臓器目当てや愉快犯ではなく、自分に執着し過ぎて代わりに実花を奪った用意周到で粘着質な相手が犯人だと感じていた。
だから危険を引き寄せる美月から引き離したのは、ある意味実花を守るためとも言えた。
だから美月は焦ってはいなかった。
もちろん、我が子の成長を見られないことに、言いようのない寂しさを感じていたから、陽史が時間を犠牲にして探し続けるなら、何も言うつもりはなかった。
もし自分たちが探さなくても、実花ならば本当の親の存在に気づいて自分から探す確信があった。
そして現在。
陽史と相対していた実花は、自分に実の母親がいると知って安堵していた。
自分をいいように支配しようとする顔面細工だらけの女が母親だとしたら、絶望していたからだった。

とは言え、実の母親に会いたいかと訊かれたら、今の生活を捨ててまでではなかった。
逆に実の母親が会いたがっているのか訊かれた陽史が即答しないので、向こうもそうでもないんだろうと悟った。
ただ、陽史が会いに来た意味を考え、覚えているはずのない赤ちゃんの頃に見た青空の光景から記憶が始まっていることから、実花は導き出した。
目の前の男が、ようちゃんだと。
そして偶然通りかかった凛は、大人の男に抱きしめられている実花を目撃した。




































