37話
実花と抱き合っているのが陽史だと気づいたのかどうか、凛はほうっと気の抜けたような目の色をしている実花の表情にハッと目を逸らし、すぐにその場を離れようとした。

萌愛も実花に気づいて抱き合っているのが父親だろうかと勘繰るが、凛は大人びて邪魔をしないようにしようと答えた。
そして、あれが実花の父親かどうか訊かれても、分かるはずもない凛は「さあ」としか返せなかった。
陽史の匂いを嗅いだ実花は本能的に嫌悪感を催し、もしかしたら自分の父親かも知れないと感じた。
しかし、父親の弟だと言われて叔父さんなのかと知ると、もう自分に関わってはダメだと言って胸を押し、距離を取った。
およそ年端もいかない子供とは思えぬ目力で、関われば死ぬと脅した。
姪の言葉に素直に従った陽史がスッと離れていった直後、人工的な顔面で美しさを維持している母親が怒鳴りながらやって来た。
実花が見知らぬ男と話していたのにも怒るが、いつの間にかパソコンを所持していることにも怒り狂い、ヒステリックに地面に叩きつけてハイヒールで踏み壊した。

ハードを壊されてもデータをバックアップしていた実花は好きに破壊させて、彼らが消えていった方向を見つめた。
実花も凛に見られているのに気づいていたが、どうして目に嫉妬を宿していたのか理解できなかった。
いつものように萌愛に付き合って図書館にいた凛は、萌愛に話しかけられてもさっきの実花のハグシーンが頭から離れず、何回か呼びかけられるまで上の空になっていた。
悪魔のところに母親が入り浸っているせいで、萌愛は子供ながらに料理本を読んで家事力をあげようと健気に頑張っていた。
かくいう凛は心理学の入門レベルの本を読んでいた。
ただ、それをチョイスした理由をはぐらかした。

図書館を出て萌愛と途中で別れると、前からどこにでもいそうな後ろに髪を撫でつけた眼鏡の男が歩いてきて、すれ違った。
何気なく観察した凛は振り返り、半信半疑くらいの気持ちで陽史だと思い、声をかけた。
すると本当に、今までの見た目とはかなり違う変装をした陽史だった。
陽史もまさか気づかれるとは思っていなかったが、凛が気づけたのは彼の教えがあったからだった。
特別製のスマホをプレゼントした時に、変装を見破るには変えるのが難しい歩き方を見ればいいとアドバイスしていたのだ。
探偵ごっこで許されるうちにやれることをやっている凛は、さっきと見た目が違っている理由を実花と抱き合っていたことと関係していると思わずにはいられなかったが口には出さず、変装の理由を探り出そうとした。
しかし陽史もそう簡単には明かさず、ぽんと頭に手を置いて逃げた。

それだけで、凛の心は浮き足立った。
直後、凛のスマホに反応が現れた。
マップに表示されたすぐ近くに出たGPS反応の相手は、今日もボブカットと眼鏡で変装している山下だった。
辺りを見回してメモを取りながら歩いている山下を凛が尾行し始めてすぐ、山下は気配を感じ取ったのか、肩を叩かれたかのように振り返った。

ただ凛に気づいただけではなく、見落としていたことに気づいて反射的に振り返っただけだった。
斎藤と蜜が住んでいるマンションの近所で監視カメラの位置を把握しようとしている山下の、奇怪な行動。
凛は陽史の教えを思い出し、平和的な考えを捨てて山下がしそうな最悪の行動を予想した。
感想
復讐の未亡人8巻でした。
こうして実花が親子が離れ離れになってしまったわけですが、果たして犯人は誰なのか?
薫がずっと監視していた狙っていたのか、身近な人物なのか…



































