娘が結論を出したのを見届けた母親は、いってもまだ20歳そこそこで若く未熟で、人ならぬ者と結婚して子供を生んだ先、自分がどう思うようになるのか。
それを理解しているのか訊ねた。
未来の想像はいくらでもできるが、どうなるのかなんて分かるはずもなく、人の心もそれは同じ。
だから彼女は親を安心させるための嘘は言わず、いつかするかも知れない後悔を優先するよりも、今後悔しないと分かっている選択をしたのだと答えた。
そして、結婚を選択できるほど大人になったんだと、自分の成長を報告し、次の母の問いにも嘘なく答えた。

それでも父親は、ベリアルが一言も娘に愛を伝えていないことを責める。
しかし彼女は、ベリアルの本当の今までを知り、心があると確信した。
だから、自分を愛していないとできないことをたくさんしてきたのも分かっていた。

願わくば、両親に自分の成長する過程を見て欲しいと思う。
そのささやかな願いは、ベリアルから密かにアルバムを見せてもらっていたと明かしてくれた両親の言葉により、早々に叶えられた。
だから、今ならベリアルの不器用過ぎる優しさを両親も受け止められているだろうと思う。

ラファエルは人間の愚行をそれでいいのか訊くが、最初から神の加護も恩恵も感じていない彼女にとって愚行などではなかった。
悪魔でありながら神のように助けてくれたのは、ベリアルだけなのだから。
そして改めて両親に、今までの感謝と謝罪をし、大人の女性として巣立つ宣言をした。

父は最後まで認めようとしなかったが、母は今の娘の幸せを尊重し、夫に選ばれた悪魔に娘を任せた。
よしのは地獄での婚姻届の欄に署名をし、血を捺した。
それをサタンに渡し、受理された。

ベリアルは必要なくなったよしのとの契約書をラファエルに渡し、天使は憮然としながらもそれを焼き捨てた。
しかし人と悪魔が結ばれ、これで大団円とはいかなかった。
ベリアルの怪我の程度は急を要し、今すぐ地獄に戻って治療しても完治するまでに半年はかかるだろうとサタンは見積もった。
今すぐ帰らなければ危ういというのに、ベリアルは炊飯器・・・と彼女に話しかけた。
米を洗剤で洗ってはいけない。
洗濯機の使い方。
バランスいい食事。
肩とお腹を冷やさない。
それらを途切れ途切れに注意してくる様は、一人暮らしを始める娘を心配する親のようだった。
彼女はベリアルが心配していそうなことを先んじて大丈夫だと答え、ようやく安心させることができた。
最後にこれからの人間の夫婦としての生活の注意をすると、ベリアルの身体が徐々に崩れ始めた。

さすがにもう身体を維持することも難しくなり、魂が壊れる直前にまでなっていた。
妻になったばかりの彼女の呼びかけにも答えず、既に意識はない。
サタンは本当に慌てた様子で部下を担ぎ、結婚の祝辞をサラッと述べ、消えた。

ラファエルは素直に、理解できないと呟いた。
望むわけがなく、望んでいい道じゃない道を選んだよしのの意思を再度訊ねると、彼女は彼の死を感じて涙しながら答えた。

その涙にほだされたのか、無慈悲に仕事をこなしてきた天使は、そう簡単に死ぬ相手ではないから苦労するのだと零した。
両親とも別れる時間がきた。
母の励ましを受け、幸せになると誓う。
父には謝り、感謝の言葉をかける。
最後の抱擁をした親子にまた別れが訪れ、よしのは久しぶりに一人になった。
この聖夜に願うのは、夫になった男の無事だけだった。




































