51話
頭を破壊され、目を飛び出させた死亡時の状態で姫蘭は四宮輝子の姿を晒された。
まさか母親だとは思わなかったカエデは歪な表情で長く会っていなかった母の無残な姿を眺めた。
はっきり聞こえなかった沙羅のために、もう一度、姫蘭は自分の母親だと言葉にしようとしたが、凶悪な視線を感じて口を閉じた。
その先に、さも楽しそうに口元を歪めているクロエルがいた。
改めて、現世で繋がりが強い者同士がここに集められているらしいことを思い知った。
母がなぜ大金を欲したのか、命を懸けるほどのことだったのか訊きたかったがもう叶わず、それよりも、母と争ってきた鬼ごっこを思うとやり切れ無かった。
生き残るために実の息子を犠牲にしようとしたのはあまりに酷いと思えたが、自分も母だと気づかなかったのだから文句を言える筋合いではないと、すぐに思い直した。

そして、カエデはもうすぐ自分が殺される運命を受け入れた。
観客席で姫蘭が叔母だと知ったユキはしかし、眉一つ動かしていなかった。
言っても血の繋がりはなく、同じ家に住んでいたときもろくに関わり合う相手でもなかったことから、情もなにも感じていなかった。
姫蘭の正体よりもカエデが身代わりになった真意が気になる中、横で観戦していた偽子は四宮輝子の無残な姿を見て、急に震え出した。

麗奈も姫蘭が叔母だと分かって衝撃を受けていた。
りんは相変わらず達観した様子で結末を眺め、四宮と南野口をぶつけたクロエルのいやらし過ぎる画策に残酷さを感じた。
フグドクは四宮の死に手を叩いて喜び、亡々死以外の面々は大した反応も見せなかった。

残酷な再会シーンもそこそこに、クロエルは二人目の地獄に移るため、指をパチンと鳴らした。
直後、カエデは横たわる母親の傍に瞬間移動させられ、生々しい血の臭いを嗅がなければならなくなった。
クロエルの動きに合わせて地面が揺れ、輝子の死体が浮いていく。
カエデはお別れも言えていない母に手を伸ばそうとするが叶わず、パッと掻き消えてしまった。
最後まで母親だと気づけなかったやるせなさを謝り、涙を流す。
ギリギリで飛び出した感傷も、地中から飛び出した拘束台に一瞬で強制的に止められてしまう。
用意された場所は、まるで人体実験を観賞して楽しむような手術部屋だった。

クロエルは語る。
知恵の実を食べたアダムとイブ。
人類は死を遠ざけるために医学を発展させたが、その陰には多くの人体実験を繰り返した事実がある。
そしてカエデに用意された地獄は、姫蘭みたいに万が一生き残れる希望がない、一方的な解剖地獄だった。

しかも、一思いに命を絶たれてから解剖されるわけではなく、生きたまま。
早く死を懇願すること必至な地獄はもちろん、麻酔無しの生き地獄だった。
だが、シロエルを倒すような無理ゲーではなく、たった一言で助かる道が用意されていた。
人の心を見通せるおぞましき目を持っていたクロエルは、カエデが誰の本名に気づいているか分かっていた。
その者の名を呼んで殺せば、代わりに準決勝に進むことができる。

もちろん普通なら、すぐに名前を言って地獄を回避するところだが、カエデは死を覚悟してユキを助けていたので、いくら生き地獄が待っていようとも簡単に決断することなどできなかった。
ユキも、名前を呼ばれるなら自分しかいないと理解していた。
切ってから縫い合わせることのない解剖手術が始まろうとしていた。
切れ味鋭そうな道具が用意され、人間への慈悲に溢れたシロエルが覗き込み、ついに言うか切り刻まれるかの解剖地獄がスタートした。




































