32話
剣の乙女はぐだぐだと何をするでもなくベッドの上で過ごしていた。
だらしなくも麗しい姿で無為な時間を過ごしていることをシスターは皮肉交じりに、健康こそ一番だと言う風に敬意を持って声をかけた。

しかし、剣の乙女ともあろうものが拗ねをこじらせてベッドの上から動こうとしないので、いい加減声を荒げ、お金持ちのお嬢様を叱る家庭教師の如く、ビシッと注意した。
すると剣の乙女はじたばたと足をバタつかせ、無言の抗議をしてくる。
シスターはそれも年齢を考えて下さいと現実を突きつけてやり込めようとする。
剣の乙女が立場も忘れ、年甲斐もなく拗ねているのは収穫祭に遊びに行けないからだった。
抱きしめた袋の先を甘噛みするほど納得いっていないのは同情できても、大司教ともなれば市井の祭りにホイホイ出歩けないのも道理。
それに今日は客が来ることをシスターは改めて伝えつつ、地下水路探索を依頼した冒険者を引き合いに出した。
すると剣の乙女は分かりやす過ぎるほどしゃっきり背筋を伸ばし、凛とした姿を取り戻す。

だからシスターは髪を解きながら、手紙でも出せばいいのにとアドバイスを送る。
シスターが代筆してくれる手紙の香しさを妄想した剣の乙女はみるみる村娘のように頬を染め、彼に届いた時のことを思って機嫌を良くした。
しかし、今日の客がお祭りの神事を見るための紹介状を欲しているらしいと知り、また自分が行けない現実を突きつけられてベッドに突っ伏してしまうのだった。

その頃、剣の乙女に恋焦がれられているなど思いもしていない彼は、武具屋に頼み事をし終わったところだった。
そのタイミングで女神官も店にやって来た。
装備の新調かと訊かれた女神官は口ごもるが、意見はいるか?と訊かれればちゃんと必要ないことを意思表示できた。
これもまた、女神官が一人の冒険者として成長している証だった。
その場で別れた彼は報酬を受け取りにギルドに向かった。
相変わらず今日も見知った顔が騒がしく、槍使いが二日酔いを魔女に咎められていたり、女騎士は装備を選ぶのが遅いのを重戦士にチクチク言われている。
彼はそれらをすり抜け、ゴブリンの依頼がないのを確かめてからカウンターの向こうでゆっくり本を読んでいる監督官に声をかけた。
彼女は思わぬ呼びかけにビクっと反応し、彼だと気づいて少し安堵した。

彼の用件が報酬の受け取りだとすぐに分かったし、準備もできていたが、詳細の報告となると、彼の専任になりたい圧を以前かけてきた受付嬢のプレッシャーを思い出し、それは担当者がいないからとごまかして後日にして欲しいと頼んだ。
受付嬢は今日、明日が休みなので仕事を持ち越さないようにあくせく働いていたのだ。

彼は一応監督官にもゴブリンの依頼がないか訊ねたが、今日はどこからも来ていなかった。
ゴブリンの依頼が来ていないとしても、彼は全く安心できず、むしろ祭りに合わせて機を窺っているとしか思えなかった。
誰も彼もが祭りを歓迎しているようで浮足立っていたが、フードを深く被った一人がやけに悪目立ちしていて、彼も顔が見えないその誰かに気づいた。
だからと言うわけでもないが、嫌な予感に備えて準備をすることにした。




































