78話
霧子と美依那はこの船で仕事をしているパフォーマーに徹していた。
ピエロマジシャンになった美依那はMCを担当し、子供たちを中心に観客を沸かせていく。
霧子はギターを奏でながら好きこそものの上手なれの歌を唄い、気分は教育番組の歌のお姉さん。
美依那はそれに合わせ、巧みな技術でバルーンアートを作り上げていき、子供たちは期待の眼差しを送る。

出来上がったのはプテラノドンという、プロでも簡単にはできなさそうな複雑な一体。
より一層盛り上がりを見せる中、仁奈は父親の水野とボディガードの烏丸を連れ、いよいよメデューサたちの前を通りかかろうとしていた。
仁奈は平静を保ち、この先の部屋がメデューサたちの根城だと嘘を吐き、罠にハメようとする。
そして二人は、大型スピーカーの前を歩いた瞬間、霧子は激しくギターをかき鳴らしながら歌い、爆音を轟かせた。
まともに音を聞かされた烏丸は特に音波の直撃を食らい、音も判別できない完全な暗闇に陥った。

さすがに偶然では片づけられず、罠だとは理解した。
しかし、続いてふわっとした感触に体がぶつかるのが分かった。
それは子供の気を引くために使っていた美依那の風船で、風船と子供を壁にする作戦で彼女がばら撒いたものだった。
さすがの烏丸も、子供諸共斬り捨てることはできず、策を弄してきたメデューサに対し歯噛みして見せるのが精一杯。
この混乱の隙に霧子は水野にワイヤーを絡め、予定通りに作戦を成功させた。
騙されたと分かった彼は、息子に色んな意味を込めてどういうことだと問い質した。

一方、神崎の圧倒的タフさを見誤った千歌は宙ぶらりんに掴まれてから投げ飛ばされ、窓ガラスに叩きつけられていた。
おそらく一般的なものより頑丈なはずのガラスにヒビが入り、千歌はすぐには動けない。
神崎は間髪入れずに走り寄り、十八番のドロップキックをクリーンヒットさせた。

ぶち破れた窓ガラスから飛び出した千歌は、受け身も取れずにぼろ雑巾のように通路に叩きつけられた。
痛みをこらえてなんとか起き上がろうとすると、神崎はプールに飛び込むかのようにダイブして、千歌を踏み潰そうとする。
体重と落下の加速で常夜灯を破壊しながら落ちてきた神崎の衝撃音だけで、食らえば内蔵を吐き散らすほどの致命傷になっただろうことは想像に難くなかった。
千歌はギリギリで避けていたがダメージが大きすぎてまともに動けず、逃げることもできずに髪を引っ掴まれた。
直後、神崎は脇腹に熱さを感じた。
見てみれば、油断を狙っていた千歌にナイフを突き刺されていた。
だが、銃で撃たれても怯まない神崎が今更小さなナイフの一突きを食らったぐらいで倒れるはずもなく、お返しにまともな膝蹴りを顔面に叩き込んだ。

意識が飛びかける衝撃に髪も引きちぎれ、もう武器もない。
今度は首根っこを掴まれて宙に浮かされ、パワー勝負では成すすべがない千歌は死に近づいていく。
息苦しさまでプラスされ、切れまくった口内に溜まった血をまもとに吐き出すことさえできない。
神崎は勝利を目前にし、思った以上に弱い千歌では、組長たちを殺すのは無理だと思えてがっかりした。

世間を震撼させたにしては大して強くもない殺人鬼を欲しがる組長や五菱への侮蔑の気持ちがより強くなっていく神崎。
その直後、上の階にいた小夜子が下りてくるのを見た千歌は、掠れる声で来るなと搾り出した。
それで神崎は二人の関係を邪推し、この終わりかけの戦いをできるだけ楽しむために、千歌を瀕死に止めておいてから、小夜子が殺される瞬間を見せてやろうと考えた。

女医の部屋に運ばれた洋子は処置を施されていた。
洋子も多少は落ち着きを取り戻し、女医に感謝した直後、高木から連絡が入った。

千歌をモニタリングしていた高木によると、殺人鬼人格とのシンクロ率が急上昇し始め、このままいけば100%に達する勢いだという。
驚いた女医はすぐ戻ると答えてから、後ろにいた吾妻に何が起ころうとしているのか説明する。
ストレスにより発火して彼女たちはメデューサモードになるが、最中でもストレスを感じれば感じるほど発火してシンクロ率が上昇していく。
つまり千歌は今まさに、死の危険などでかつてないほどのストレスに晒されているという。
果たして女医も興奮する、ヘンリー・リー・ルーカスと100%シンクロした千歌は、小夜子を殺すと言われ、おぞましいほどの殺意を放ち始めていた。
首を掴んで浮かせているはずの神崎は、体が恐怖を感じ取り、鳥肌を立たせ始めた。
頭では分からない恐怖を感じていることが分かって戸惑った直後、耳を引きちぎられ、思わず千歌を手放してしまった。
身のこなし軽く着地した千歌は微かに笑い、ちぎり取った耳を見せつけていた。

































