進化情報とは言わば生物の望み、願望、アイディア。
ある生物が欲する情報を異種族が既に得ているのなら、それを共有できるという意味だという。
願いは種族の繁栄、存続、人間なら個人的な幸福でさえ進化情報として蓄積されていく。
そこまで聞いた彼はハッとし、ある答えに辿り着いた。
高木が彼の変化を成長したと喜んでいたのは、まさに説明されたことが当てはまった。
進化情報は秋保避難民の中に、自分たちの中にもある。
死地を潜り抜けてきた生存者はここまで生きるために様々な願いを抱きながら切り抜け、次の危機に備えて準備したり、変わりたいと願ってきた。
そんな当たり前の思考こそが進化の願いで、アイディアとして蓄積されていく。
つまりそれこそが、あの人とやらがいう熟成だった。

そして、秋保に集まってもすぐ次の段階に移行しなかったのは、避難民同士で情報を共有し合うことで進化情報を共有させられていたのだ。
生きるためという強い思いにより自然とそういう行動に移るのは必然でもあり、あの人の計算通りに動かされたとも言えた。
その彼の導き出した答えに高木は興奮で身震いしながら正解を進呈した。
そして、アメリカ大統領がもう動いていたら、熟成は完了したという合図らしい。
熟成完了後は、唐突な進化が起こるらしかった。
場所が変わり、脱出のために多くの避難民が集まっている道の駅駐車場。
ベンチに座って脱出の時が来るのを待っていた麗の前を、フラついた女が通り過ぎようとした。
しかし、気味の悪い呻き声を漏らしながらその場に倒れてしまった。
ビクビク震えているのを見て、具合を悪くしたのかと思った麗がすぐに立ち上がって声をかけると、抱っこされていた我が子が瞬く間に泣き出した。

倒れた女は断末魔の叫びならぬ、最後の痙攣のような動きで腰を突き上げながら震え、すぐに動かなくなって地面にべったり伏した。
すると勢いよく上半身だけ起き上がらせ、しっかりと前を向いた。
最初の保菌者の比ではない圧倒的なスピードで進化した女は目が飛び出しそうなほど肥大化し、口が全て歯を失った老婆以上にすぼまって中に吸い込まれているような顔に変わっていた。
その口はなぜか、後頭部に姿を現し巨大化していた。

まるで昔話に出てくるような妖怪じみた進化を経た女は助けようとした麗の頭を掴み、巨大な口と歯で噛み千切ろうと襲いかかった。
麗は衝撃が強すぎて咄嗟に動けず、まだ異変が起きているなど大多数が気づいてない中で、血飛沫が上がった。
高木によれば、熟成完了後の進化は水が沸騰して泡が水面を覆い尽くすかのように、一度始まれば連鎖的に膨れあがるという。
そうして避難民同士の殺し合いの末、生き残った進化情報の塊の新保菌者が、米軍をも返り討ちにできる武力を誇る存在になる。
ただ、隔離地域さえ脱出すれば空気中に進化情報がなくなって熟成を止めることができる。

もう一つは、保菌者を無力化することでも止められると高木がいうと、彼は無力装置はあるが大量にはないはずだと、そこまで残念ではなさそうに答えた。
更に彼が、今日脱出する予定だから大丈夫だろうと答えると、高木は信じられないことを聞いたように喋るのを止めさせた。
今日脱出と保菌者無力化装置の完成。
高木にとって聞き捨てならない情報だった。




































