20話
小森は踏んだり蹴ったりの一日を継続していた。
石井に謝罪して軽くキレられてから後、ゲリラ豪雨に遭遇してしまって慌てて近くの軒先で雨宿りしていたのだ。
まさに泣きっ面に蜂。
そのお店の人も看板を出しに外に出て来て、急に降り出した豪雨に濡れながら設置した。
雨宿りスペースを狭くしてすいません、こちらこそすいませんと大人なやり取りをしつつ、彼は職場に帰ろうと思っていた時間にもう完全に間に合わないことを悟り、どんどん憂鬱な気分になっていく。
仕事したい気分でもないのは当然で自然と溜息が漏れると、お店のお姉さんが「お疲れですか?」とまた声をかけてきた。
心まで荒んでいた彼は適当に返事して放置を望むが、お姉さんは看板を示し、良かったらと営業をかけてくる。
よく見てみると、このお店は男性も歓迎のマッサージ店のようだった。
みちるにはない穏やかな笑顔と目尻の泣き黒子。

小森は誘われるがまま店内に入り、リラックスできる匂いにふっと意識を奪われながら初来店用の記入カードの項目を埋めていった。
しかし、最後の同意事項という一文で、男性に向けて下腹部や大腿部への施術は行っておらず、この旨に同意するなら免許証を提示してもらうと添えられていた。
明らかにいかがわしい行為をされないための予防線としか思えない同意事項だったが、みちるとの事で心がささくれ立っていた彼がどういうことか訊ねると、お姉さんは気まずそうに性的なプレイを要求されないためだと濁して伝えた。

土下座したばかりの彼はみるみる不機嫌になって眉間に皺を寄せるものだから、お姉さんは勧誘した手前、大腿部への施術は行うと言ってくれるが、彼はそのサービスにもイラっとし、そんじょそこらの理性を無くす男と一緒にして欲しくないと鼻で笑った。
見た目で中身まで判断できないのだから同意してもらっているのにという苦笑いを漏らしながらお姉さんは部屋まで案内し、中のガウンと紙パンツを着用するよう伝え、一旦離れた。
彼は言われた通りに紙パンツの上にガウンだけ羽織って、お湯に足を浸してみると、少し気分が落ち着いて眉間の皺も一瞬消えてくれた。
準備ができた彼のところに再びやって来たお姉さんは侍従のように恭しく跪き、彼の足を膝に乗せて丁寧に拭き始めた。

ベッドに座ったまま相手の膝に足を乗せ拭いてもらうのは、かなり自尊心がくすぐられ、気持ち良かった。
彼は散々に貶されたプライドを少し取り戻し、目を潤ませた。
続いてアロママッサージに移ることになり、ガウンを脱いでくださいと指示したお姉さんはタオルを目の前に高く掲げ、彼の脱衣が見えないように配慮した。
しかし、それはそれでこれから恥ずかしいことをするとアピールされているようで、かえって恥ずかしかった。
言われるままうつ伏せで彼がねそべると、タオルがふんわりかけられて肩から膝裏まで覆われた。
そしていよいよ左足にお姉さんの手が伸び、アロママッサージがスタートした。
手で伸ばされたオイルが足裏に塗りたくられ、足指と手の指の恋人繋ぎでくにくに揉まれ、続いて一本ずつ腹が解されていく。
無防備な状態で足先をくりくりされ、徐々に上に移動してふくらはぎから足首にかけて上に下に揉まれ始めた彼は、いよいよ理性を崩壊させてもおかしくないエロさに気づいてしまった。

魔が差しちゃった男たちへの理解を深めた直後、タオルが更に捲られて紙パンツが見えそうなほどになって彼は焦った。
そっち系のサービスはないと言っておきながら、斜めから見ればもう股間の膨らみが分かってしまうほどタオルが上げられただけじゃなく、柔らかでぬるぬるな手が大腿部である太ももに伸びてきた。
その迷いない手つきはスーっとスライドし、もうジンジンしてしまっている股間に近づいてきた。

これはもう触られると思った瞬間、手はギリギリのところで下がっていったのだった。
ただ上下動はもちろん一回だけではなく、膝裏からまた始まって下腹部ギリギリまで揉み解され、また膝裏に戻ってが繰り返された。
これはかなりヤバいと思った。
先っぽにギリギリ触れないくらいの距離の内ももまでぐにぐに揉まれた彼は、上がってくるたびに棒がドクドクと脈打つ感覚に襲われて、自分から女体を触りに行くのとは違う快楽に負けてしまいそうだった。

何回かやられているうち、もういっそのこと一思いにがっつり触って欲しいと思ったがどうにか押し込め、どうせギリギリで止められるだけなのだから興奮するレベルなんかではないと言い聞かせた。
余裕余裕、ここは健全なマッサージ店。
襲われないよう予防線を張っている店であり得ないと思ったその時、何度目かに上がって来た指先が確かに子種を溜め込んでいる袋に触れたのだった。

彼はあの時と同じ、情けない声を漏らしてしまった。
お姉さんが確信犯で触ったのかどうか、それは分からない。
ただ彼は慌てて何でもないとどもりながら答え、何事もなく施術は続けられた。
まさかと思った彼はそれでも、本当に偶然当たってしまっただけで、お姉さん自身も気づかない程度だったと言い聞かせて理性を保つが、もし二回目があれば…
そう警戒と期待をして生唾を飲み込んだ。
その後、右足も滞りなく揉み解され、デコルテ、首筋とぬるぬるに揉み解されていった彼は、じわじわと刻み込まれていた眉間の皺が消え、眉毛が穏やかな角度を取り戻していった。
その後は腕に移り、付け根から指先に向けて丁寧にぬるぬるに揉み解され、怪しい雰囲気になることもなくマッサージは終了した。
ただ仕事をしただけの泣き黒子が艶めかしいお姉さんは着替え終わったらお会計お願いしますと伝え、部屋から出ていった。
また一人になった彼は股間を隠していたタオルを取ってパンツの中が我慢汁でぬるぬるになっているのを確かめて、さすがに持ち帰ることにした。

店を出る頃には、彼の心と同じように空もすっかり晴れ渡っていた。
お姉さんが確信犯的にソフトタッチしたのかどうかは分からないが、サービス業として当たり前にまたのご来店をお待ちしていますと声をかけ、偶然出会ったビジネスマンを送り出した。

顔に生気を取り戻した彼は今すぐ抜きたい気持ちだったが、代わりに身体がスッキリ軽くなっていた。
なのに、お姉さんのギリギリマッサージからまたみちるとの勝負を思い出し、次こそ勝利するためにこの経験を活かして、催淫効果があるらしいアロマオイルを勝負に使うことを決めた。
































