9話
只野が気になっていたのはもちろん、墓場まで持っていきたかった特殊な趣味についてだった。
あの衣装を含めたセット一式をコインロッカーに預けてあると聞いたらば、クールな振りでナイス判断だと褒めながらも、心底ホッとした。
そして重要なのが、自分が考えたあの設定、衣装、シナリオを千秋がどう感じたかで、勢い余って声を荒げ、感想を催促した。
あくまで綿密に計算された侵入作戦のアイテムだと信じ切っていた千秋は改めて真剣に考え、良かったと思うと答え、意図せずに只野を喜ばせた。

全ては千秋の演技力と似合い過ぎた女装により、ギリギリ敵組織に気に入られただけだが、本人は用意されたアイテムのおかげだと勘違い続行。
これでもかと褒められた只野は一人の人間の命を脅かしたことなど忘れ、とにかく冷静に喜んだ。
それで話が終わりそうだったので千秋がびっくりすると、只野は慌てて面接時の衣装は回収するから触るなと怒鳴りつけ、後部座席に用意している普段着セレクションの中から今日の衣装を選べと指示した。
スーツケースに詰め込まれていたのは、チャイナ服にチアガールにと、単なるコスプレ衣装だった。
もちろんそれらも只野の趣味だけが反映された天音の設定であり、一度信じた千秋はゴリ押しの理屈を受け入れざるを得なかった。
と言うことで、ミニタイプのチャイナに着替え、まためちゃくちゃ似合った。

自分が着せたいものを着せるしかさせることも指示することもない只野は適当なところで千秋を降ろし、出社を指示。
只野に具体的な指示などなかったが、勤務初日に政治家宅に落書きしたり先輩が殺されかけたり犬が仲間にいると知った千秋は昨日の出来事を伝えた。
只野はガチで驚き、再び千秋を愛車に乗り込ませた。

ロン毛の先輩、日本語を解さないコバーン、犬のぽっさん、そして先輩みたいに殺されかけないよう、千秋はあの爆乳タイツヒーローに自分の素性を伝えておいてくれと当然の要求をするが、只野はそれを拒否した。
千秋がスパイしているように、自分たち側にもスパイが入り込んでいる可能性があり、何かあれば自分の裁量内で助けることしかできないと絶望的な答えを返した。
そして千秋が象さんはおろか、ジェリー・E・フィッシュに会ったと知ると、またガチで驚いた。
直後、ハンドル操作を誤り民家の壁に擦りつけて愛車に無残な傷がついた。
運転に支障を来したくらい驚かせたジェリーとは、只野たちにとって無視できない厄介な相手なようだった。
それはそれとして、只野が中古で買ったとしても愛車に傷がついた原因を千秋に少しでも擦り付けようとするので、醜い言い争いが始まりかけた。
その流れで怒りと悲しみ交じりに、只野は今思いついた、ジェリー接触作戦を指示した。
何も指示などないと言っておきながら、明らかに思いつきの即席で具体的アドバイスのない丸投げ指示に戸惑う千秋。

憎きジェリーについて知れる機会を得た只野はとにかくジェリーはおろか、その上の幹部の情報を得ようと、とにかくやれることをやれみたいな感じで指示し、一つも具体的なアドバイスを伝えなかった。
千秋の目標は目下、加入したチームの信頼を得ることになった。
そして教えてもらった住所を頼りに辿り着いた住所は、事務所と聞いていたのにどこにでもある単身用くらいの広さしかなさそうなアパートだった。

カンカンと音が鳴る階段を上がってみると、確かにチームの職場であることを証明するようにぽっさんがドアの外にいて、声を聞きつけたのか中から完全に部屋着状態の星が迎え入れに出てきた。
ポっさんがあくまでチームの一員で千秋より先輩という設定なのか真実なのかは貫き通されたまま、千秋が室内に通されたその時、星はさり気なく千秋の頭にポンと手を置いた。
昨日とは桁違いに優しくなった星の態度に千秋は戸惑いと寒気が走った。
昨日、命を救った恩からか。
それはそれで信頼を得る作戦としては上々なスタートだったが、星からの好意はシンプルに気持ち悪くて仕方なかった。




































