21話
コスプレイベントの参加者に見られたものの、同じコスプレ衣装だと勘違いしてくれたおかげで、佐野の逃亡が本当に成功することはなかった。
再び連れ戻された佐野は今度こそ完全に身動きを封じられた。
毛布で巻かれた上にガムテでがっちり固定され、口も塞がれ、精々うねるのが精一杯。
監視カメラも直されず監禁部屋に戻されると、また地獄の薄暗い時間を過ごさなければならなかった。
一階に戻った正隆と雪映は頭を抱え、自分たちの犯罪が露見しかけた失態を顧みた。

首枷の辺りに割れた陶器の欠片がいくつもあったのを見つけた正隆は、そう言えば、佐野はよく皿を割っていたことを思い出した。
精神がおかしくなったように見えていたが、それは単なるフェイクで皿を壊してもおかしくないよう振舞っていたのだと、今なら嫌でも理解できた。
ずっと逃げるチャンスを狙っていたのだと。
拳を握りしめた正隆はもうその時が来たと覚悟し、口を覆って真っすぐ前を見ている雪映に話しかけた。
同時に雪映は独り言ち、これ以上はもう限界だと言った。
正隆の角度からなら、雪映のお腹の膨らみがより強調されて見えた。

産まれてくる子とアレを交わせたくないとも言い放つ雪映。
正隆も言葉少なに同意した。
最大の危機を迎えたことで、夫婦は一人の男を確かな殺意を持って殺すことに決めた。
色々書籍を買い漁って殺し方を調べていた雪映は、いざ決行することを決めるとどの方法が最善だなんて判断できず、せめて可能な限りの安楽死を選びたいと思った。
すると正隆が、一思いに一気に包丁でやると言い出した。
包丁とリピートした雪映は少し考え、やはりどうしても血が出る殺し方は証拠が増えるのが危険だと感じ、賛成できなかった。
方法は皮肉にも、堂々と、萌を殺したのと同じ、二人で紐を引っ張って首を絞めるのがいいと提案した。

確実に絞め切って動かなくなった後、ゴミ袋を巻き付けて腐敗臭が漏れ出るのを予防、その上に毛布で包み、もちろん人目を避けて外に運び込み、スペース的に厳しいから萌の上に重ねて埋める。
深さだけは十分に二人分入るように掘っていたが、正隆はまた萌の変わり果てた姿を見なければならないことに今から気が重くなる。
それでも提案を受け入れ、改めて自分のせいで手を血に染める事態になってしまったことを謝った。
しかし雪映は夫を「まーたん」と呼んで否定した。
元々の原因は、お互いが意地を張り合い、冷え切っていても夫婦だけを演じ続けたことにあると言い切った。
ただ離婚してないだけだったことが、全ての原因だと。

結婚して8年経ったと改めて言う雪映は、これまでの8年はアレと共に埋め、それ以降は今までのことを口に出すのも禁止にしようという。
新しく始める。
一つの命を奪い、新しい命を産み、新しく始める。
新しくという希望がたくさん詰まったワードで正隆は、いつか雪映が語った未来予想図を覚えているか訊ねた。
子供が産まれる瞬間、初めて抱く瞬間…
実際にその日が近くまで迫っている今、沸々と実感が伴ってきていた正隆はその予想図が現実に来た日のことを思うと、きっと泣けると言い出し、既に震えて顔を覆った。

もう泣いていることをからかった雪映がティッシュを渡す雰囲気は、とても人殺しを決意したようには見えなかった。
一緒にベッドに入っても、殺しの算段を詰めていく。
決行は明日。
正隆が午前中に穴を掘って準備している間、雪映は病院に行き、帰りにスーパーに寄って帰りは昼過ぎになるだろうという。
正隆は最後くらい、まともな食事を食べさせるべきか気になったが、雪映は大して気にせず丸投げした。
正隆は最後に、もう一度自分一人でやってもいいと言うが、雪映はそれだけは譲らなかった。
そして雪映の寝息が聞こえ始めると、正隆はたらればな未来を夢想した。
萌を殺さなかったら佐野を殺すこともなく、変わらない生活を続けていたら、その時はまだ雪映と共にいるのか…
分かるわけがなく、正隆は背中を向ける妻を見た。

感想
ただ離婚してないだけ19話20話21話でした。
何とか逃げ出せたものの、コスプレイベントとかち合ったこと、姿が変わり過ぎていたことが不運でしたね。
こうなったら、そろそろ佐野が始末されそうです。
https://www.kuroneko0920.com/archives/58549
































