3話
釣り竿をヒュッと振ってしならせた睦美は、これで戦うと言い出した。
巨大カブトムシに追い詰められて失禁し、泣き叫んでいる青山の方へ近づいていく睦美は、千歳や甲斐が止めるのも聞かず、カブトムシたちの様子を観察しながら竿を振り始めた。
すると、カブトムシは竿のしなり音に反応して睦美に注意を向けた。
小学5年生の時、睦美は榎からカブトムシの操り方を教えてもらっていたのだった。
何でもない棒を振って音を出し、右に左にクワガタを動かしていた榎を真似てやった時、初めてでもセンス良く操れていた。

その時のことを思い出し、リズムよく竿を振ればカブトムシが食いついて来た。
世界には虫同士を戦わせる闘蟲という勝負事が多数あり、特にタイで盛んにおこなわれているカブトムシ同士の戦いで使われる棒はマイパンと呼ばれている。
睦美は釣り竿をそのマイパンとして、カブトムシたちの特徴を見分けて名前をつけ、一番巨体の一体と高いシンクロ率を示した。

サーカスの猛獣使い然とした睦美は、手懐けたカブタンを引き連れ、青山の前から離れようとしない二体の方へ近づいていく。
青山は睦美を下に見て助けられることにまだ屈辱を感じるが、悠然とカブトムシを手懐けている勇ましさを見てようやく、自分が中身のないクズだったことに思い至った。
しかし、睦美に救いを求めた自分を受け入れられず、叫んで助けを拒否した。
睦美はすぐに叫ばないよう警告するが時既に遅く、甲高い声に反応した一体が飛びすさり、カミソリのように鋭い爪で捕まえようと襲いかかった。

また響き渡る青山の悲鳴。
カブトムシの激突で巻き上がる砂埃。
だがギリギリ一歩早く、睦美が手懐けたカブタンが角右曲がりのミギマガリを押さえつけ、青山は九死に一生を得たのだった。
死を目前に、実際に殺そうとした睦美に助けられた青山は依存の対象をすり替え、犬の如く性的欲求を組み込んだ愛情を睦美に感じ始めた。

まだ完璧に脅威は去っておらず、睦美はカブタンを巧みに操って雷のように傷の入ったサンダーの下に潜り込ませ、まさに闘蟲のようにひっくり返させた。
その隙に砂埃から抜け出して千歳たちの方に避難するが、もう一体のミギナガが追いかけてくる。
睦美は青山を突き飛ばして逃がし、カブタンを呼ぶが、距離が開いたせいで竿の音に反応しなくなった。
ミギナガの鋭い爪をなんとか躱しながら、子供の頃に聞いた榎の言葉を必死に思い出し、同じ音を再現して振り向かせ、ミギナガに突進を食らわせることに成功した。

こうして、睦美の底知れない知識と度胸でカブトムシの脅威から逃れられるかに見えたが、大きな音を出し過ぎて新たな個体を引き寄せてしまっていた。
一体や二体じゃなく、あちこちから恐ろしい音が近づいて来た。
その時、傍のビルのシャッターが開き、中にいた桃崎が建物内への避難を促した。
桃崎との無事な再会を喜べたのも束の間、巨大ミミズの肉バイブから助けてもらった桃崎は、無雲むく兵衛のことを睦美たちに紹介した。

拷問を仕掛けた二人とは違い、争うつもりのなさそうな南雲はいきなり土下座し、妹を助けて欲しいと頼んできたのだった。


































