118話
柱の一部を抉り取った獣の巨人は、調査兵団を全滅に追い込みかけた時と同様、程よい大きさに握り潰し、見事なフォームで投げた。
横に広がって飛ぶ石礫はおもしろいほどに飛行船に命中し、黒煙が上がり始める。
イェレナは神の如き一撃で敵戦力が一挙に削られたことに、諸手を上げて歓喜した。

ピークとマガトはすぐさま獣に一撃必殺の槍をぶちこもうとするが、狙いを定めるより早く石の弾幕を投げられ、壁陰に隠れざるを得なくなる。
そうして防戦になったところを、立体機動部隊が追撃をかけた。
獣を確認した進撃が確実に近づいている一方、ガビは責任を感じてコルトと一緒にファルコを助けに行こうとしていた。
そのファルコは、ナイルたちと一緒に地下牢に閉じ込められていた。
同じく閉じ込められていたミカサたちを見かね、オニャンコポンはマーレ軍を相手にエレン一人で戦っていると伝え、エレンを援護するために力を貸して欲しいと頼みながら牢の鍵を外して解放した。
しかし、あまりに都合のいい言葉にキレたコニーが胸倉に掴みかかり、裏切りはもうたくさんだと叫んだ。
その裏切り者のエレンを助けて、子供を作れなくなる体になれる道理などなかった。

それでも冷静さを保ち続けているアルミンが間に入り、オニャンコポンに説明する時間を与えた。
オニャンコポン曰く、安楽死計画も脊髄液入りのワインについても知らないらしく、躊躇わずに仲間を撃てるイェレナが口止めの根回しをしていたことから本当のようだった。
そもそもオニャンコポンはこの島の未来を信じ、次世代の子供に未来を託す思いで来たから、安楽死計画など自分が望みと正反対だという。
アルミンはあえてその言い分を信じた。
エレンを助けても安楽死計画を実現させずに、地ならしの脅威だけ世界に見せつけて平和を勝ち取る。
ミカサもエレンを助けたいと願っている気持ちは強いが、やはりアッカーマン家の血がそうさせていると思うと割り切れなかった。
それをアルミンは、エレンが咄嗟に吐いた嘘に違いないと言い切った。
普通に考えれば、エレンがエルディア人を安楽死する未来を望んでいるはずがないと思っていた。

エレンならあり得るあり得ないの話は個人の見解があるとしても、イェレナに逆らわないのは狂気を孕んだ彼女に予想を超えた行動を取られることを恐れたからで、従ったフリをして、最終的に力を使うかどうかは自分の意思で決められるからだとアルミンはいう。
そしてマーレや世界各国の軍が集結している今、予定通りに壁の巨人を呼び起こして地ならしだけを発動させれば、島の当面の安全は確保される。
理屈は通るが、いくらアルミンの見解でも誰も簡単に信じ切れなかった。
それでもジャンはエレンをクソ野郎だと罵りながらも、悪友としてまだ死んで欲しくないと素直な気持ちを吐露した。
もちろん誰も、エレンの死を望んではいなかった。

ただアルミンは、ミカサの疑問には答えられなかった。
エレンが真意を隠しているとしても、どうして幼馴染みでずっと一緒だった自分たちを突き放し、嫌いとまで言った理由を。
ただアルミンは、初めて一緒に海を見た光景を思い出せた。
ジャンたちは死地を潜り抜けて身に付けた凄みでイエーガー派として反乱を起こした新兵たちを睨むだけで、囚われのピクシスたちを解放させた。
ピクシスの統率力で瞬く間に指示が出され、最大戦力であるミカサは当然立体機動部隊に入り、装置をつけ始めるが、あの寒かった日以来、初めてマフラーをせずに戦いに出ることにした。

































