96話
まだ発火率を高く保っているのか、小夜子はまだ鋭い眼差しを残したまま、堂島姉妹に脱獄への最短ルートを伝えた。
夜明け前に大阪港に着いた後、タクシーを捕まえて新大阪駅に向かい、新幹線で名古屋まで50分。
名古屋港まではタクシーで25分としても、約束の時間には余裕を持って間に合うはずだと説明した。
しかし、交通費はどうすればいいのか?
美依那がその疑問を投げかけると、カチュアが溜息を吐きながらも麻雀で手に入れた札を何枚かプレゼントした。
瀬里が誤解していたと失礼なことを言っても特に気にしないカチュアの横で、霧子はまた姉妹が順調に幸せに向かっていることに喜んだ。
その霧子の横で、完全に通常時に戻っていた千歌は、焦りから鼓動が速くなっていた。
小夜子はその変化にも目敏く気づき、おそらく発火が切れてるんだろうと察した。

投薬されてから5時間。
それも無理からぬことだろうと思うと、堂島姉妹、霧子、カチュアも一気に大人しくなっていることから投薬切れだろうと分かった。
小夜子は戦力が大幅ダウンしている今、ただ無事に全てが終わることを祈った。
大阪港までは順調に到着すると、姉妹に駅までの道を伝え、そこで別れることにした。
それぞれ短く別れの言葉をかける中、どこか抜けた女子高生に戻っている千歌は向こうに着いたら手紙を下さいと頼み、瀬里を驚かせた。
最後にすっかり仲良くなった霧子と瀬里がハグをした。

そこで別々の道を歩み出そうとしたその時、羽黒の特別機動警備隊が現れた。
映画のようにタイミング良く現れた如何にも一癖ありそうな警備隊の面々に吾妻は驚き、武術全国レベルの実力を備えた荒事対処のプロだと彼女たちに伝えた。
もちろん、千歌を始めとして、ほとんど発火が切れているメデューサたちは恐怖するだけで殺し合いなど挑めない。
だが吾妻が一応の同僚として一歩進み出て、女医の名前を出し、許可は取ってあるから大丈夫だと伝え、嘘で切り抜けようとした。
しかし話し合いもされずに無言で張り飛ばされてしまうのだった。

レズビアンな兆候を見せても、職務に忠実だった吾妻。
とは言え、短くない時間を過ごしてメデューサたちへの情は思いのほか強くなっていたが、暴力での制圧を良しとする危険な男たちの知ったことではなかった。
そして号令により警備隊の男たちは一斉に襲いかかり、メデューサたちは為すすべなく取り押さえられていく。
ただ、発火を保っているのかどうか分からないカレンは乱暴な扱いに感じていた。

それでも、カチュア、カレン、小夜子、美依那、霧子が容易く身動きを封じられてしまう。
千歌はなんとか抜け出し、あやは身軽な身のこなしで躱し続けていたが、もはや脱獄は完全に失敗だった。
どうすればいいか分からない千歌が涙を流した直後、真希の叫びに振り返った。
すると、捕まった瀬里が掴み上げられて股をぱっくり開かされ、意味のない辱めを受けていた。

その残酷な姿に霧子の言葉を思い出した千歌は、リーダーらしき片目の男にしがみつき、懇願した。
狂気のマッドサイエンティストに殺人鬼に仕立て上げられただけで、堂島姉妹は幸せを願う自分たちの希望なんだと訴えた。
望まぬことをさせられた自分たちは、幸せになる権利がないのかと訴えた。

もちろん、職務でやっているだけの彼らにそんな訴えなど何も響かず、千歌は突き飛ばされた。
直後、彼らの乗ってきたバスがぐんぐん迫ってきた。

バスジャックして運転席に座っていたのは、満身創痍の洋子だった。
サイドブレーキを外し、アクセルを目いっぱい踏み込んだ洋子は、仲間たちに伏せてと叫びながら急ハンドルでドリフト走行よろしく車体を横滑りさせた。
それで身体の小さなメデューサたちだけ車体の下にうまく潜り込み、男たちだけバスに弾き飛ばされた。
一か八かの紙一重でも、一発逆転の大反撃は見事に成功。
あやほどにもなれば、男たちから逃げながら華麗に宙を舞い、バスのルーフに飛び乗る芸当さえ披露できた。
これでまだ、姉妹に幸せを掴める可能性が残された。

































