234話
いきなり深夜に起こされた夏生は、何の話があるのか聞かされないままついて行くしかなかった。
何か怒らせるようなことでもしたかと恐々連れて行かれた先は、ただの多目的室だった。
まだ意味が分からない夏生が何の話か訊くと、雅は振り向くなり潤んだ瞳で何のことか分からないことを言い出した。

夏生が戸惑うだけなので、雅はぷっくり頬を膨らませ、台詞がパッと出てこない彼に、これはテストで演じる台詞の一つだと教えてあげた。
本番はド緊張することを鑑み、本来の舞台と同じように人物同士の掛け合いで練習させてあげたいと水沢に頼み、雅は相手役を買って出たのだった。
自分が役者に推薦した責任感からだと言いつつ、もちろん本心は雅なりのアピールだった。
雅の厚意に甘えて、さっそく掛け合いで稽古を始める夏生。
しかし、聞いてられないほどの酷さは消えても、まだまだ棒読みの域を脱していない。
雅は改めてどんな内容なのかあらすじを語り出すが、それだけでヒロインにガッツリ感情移入してしまって泣き出した。
雅ほどでもなくても夏生も見習って再開してみたが、すると雅の方がノリにノッテ真に迫った演技をするものだから、彼はガチ告白されたみたいな気になってドキッとした。

だがその感覚こそ、主人公に感情移入できていたから感じたものだった。
そんな夏生の成長に、雅は打算も忘れ、役者の先輩として純粋に喜んだ。
その勢いに乗って、深夜3時を回るまで稽古に打ち込んだ。
夏生も順調に上達し、雅もご満悦で部屋に戻り始めると、曲がり角の先から明らかにヤっている女の子の喘ぎ声が聞こえてきた。
もちろんそれは、童貞喰い記録を更新しようと張り切っている葛岡の声だった。
部屋まではそこを通るしかなく、二人は騎乗位でハッスルしている葛岡の気が済むまでか、新入生男子の子種が尽きるまで待つしかなかった。
そしてAVを一緒に観るより気まずい空気の中、変なテンションになった雅は思い切った質問をぶち込んだ。

初めてした時はどんなだったの?と。
まさかの踏み込んでくる質問にドロドロした恋愛遍歴を持つ夏生でも驚くが、偶然合コンで出会ったツンケンしたルイとヤった時のことを鮮明に思い出し、当たり障りなく答えておいた。
当然、会話の流れとして雅の場合も訊ねた。
彼はすぐにセクハラかと思ってごまかしたが、雅も律儀にごにょごにょ小さい声で答えた。
まだ、と。

またしても気まずくなったところで、いつの間にか終わっていた葛岡が二人を見つけて声をかけ、ドキドキワクワクの夜は終わりを告げた。
翌朝からもランニングで体力づくり、発声練習、各稽古と恙なく真面目に合宿は過ぎていき、夏生も個人練習を欠かさなかった。
やがて合宿最終日の前夜になり、二人きりの秘密レッスンも今夜が最後。
ただ今夜に限って多目的室は先に誰か使っているようだったので、駐車場に場所を変えた。
相変わらず瞬時に役に入る雅の変わりように驚いた彼は、それに負けじと集中力を高めて台詞だけでなく、表情、仕草にも感情を乗せて食らいついていく。
すると、目を見張るほどの成長ぶりに逆に引っ張られた雅は、相乗効果で感情の昂ぶりが抑えられなくなっていく。
そして愛の台詞を言って僅かに見つめ合った後、雅はかかとを上げて本当にキスしたのだった。

果たして役に入り過ぎたのか、本心の恋心が突き動かしたのか…




































