93話
残された猶予は残り一日。
一日あればサンドワームの弱点なんて見つかるだろうと踏んでいた彼は、かなり焦っていた。

ミース図書館で手あたり次第に書籍を引っ張り出してみた結果、今のところ大半が解読不能な文字で書かれており、半分近くは絵だけの内容だった。
もちろん、日本語なんて見つからない。
今になって現代より三千年も経っているのがどれほど途方もない時間なのか思い知った彼は、当時の本があったら国宝級間違い無しの超貴重な代物だろうと思った。
こんな楽観的な考えを持ったのも、この世界に来てさっそく、日本語の看板を掲げたエルフの店を訪れたからなのが大きかった。
もしあの店の文字が最近こっちに来た人間が書いたのなら、どうしたって仁科が書いたと思わずにはいられない。

ただそんな可能性の話を今考えても仕方なく、ガリアを倒してIDカードを手に入れ、仁科を起こしてからだと切り替えた。
無事に非処女の仲間入りをしたキアも図書館に入ってくると、ボケーッとしている先輩たちを差し置き、せめて分かる範囲でモンスター関連の本を探し始めた。
その姿にミサキたちもようやく手伝うという選択肢を選んで動き出した。

そしてあっという間に夜になり、棚の本は粗方取り出されてテーブルに堆く積まれた。
結果、英語や当時の言語がいくつかと日本語の本も発見できたが、都合よくモンスターの弱点など書かれていなかった。
モンスター本はあるにはあったが、サンドワームについて記載されておらず、希望は断たれた。
ミサキが潔く正攻法で挑むしかないと切り出すが、クサクサしている彼は喧嘩腰でそれに答えて否定した。
ルーミがカイを倒した事実を持ち出してくれるが、ネット検索万歳なんて言えるわけもなく。

はっきりした弱点が分からなくても、ガリアにダメージを与えればサンドワームになり、その状態ならおそらく魔法は使えず物理攻撃が効くことをナゴミが命を懸けて解明してくれたと、モモが建設的な意見を出した。
すると、一網打尽を防ぐために自分が単身で突っ込んでガリアにダメージを与えるとミサキが言い出した。
彼がその役目を引き受けると言っても、ミサキは譲らなかった。
そしてその捨て身の作戦が失敗した時は、キアは自分が食べられて一日稼ぐと申し出た。
死にたがっているようにさえ見えるキアの自己犠牲精神にルーミは疑問を抱くが、キアは口を引き結んで何も答えようとしない。
モモは勝手に、同期のナゴミに後れを取るまいとしている気がしていた。
しかしキアの自己犠牲作戦は、彼がキリっといい顔で完全却下した。
その言葉にハッとさせられるキアだが、どんな惨い殺され方でも交尾した自分の自業自得だと引かない。
その時、まだ思うままに喋ろうとはしないアマネがキアの肩に手を置き、優しく微笑んだ。

無言の優しさ。
それこそ自己犠牲の覚悟を感じた彼は、アマネが左目の封印を解くつもりだと思った。
もうできることはなく、明日の決戦に備えて各々英気を養うことになった。
あてがわれた部屋のベッドに寝転がった彼は、こんな状況でミースに戻ってきた中途半端さに歯がゆさを感じた。
そして、現代ではそれなりに強い剣道少年だったことに思いを馳せた。
県大会決勝の相手は全国優勝経験もある高校生最強クラスで、しかも隣町の学校の生徒だったから今まで何度となく対戦し、一度も勝てていない相手だった。
だからその時も勝てるとは思えず、心は腐っていた。
しかし、死も経験した今になって思えば、たかが竹刀同士の戦いの何に絶望を感じていたのか分からず、弱気になる無意味さを思い知っていた。

一人で横になってようやく、ガリアの弱点が分からずとも、勝つ気でいかなくては何をしても負けると思い直すことができた。
直後、ドアがノックされて開けてみると、えらく可愛いパジャマを着ても表情は変わらないジト目キアがいた。

帽子も身体の一部だと思っていたと彼がからかい、キアが軽くツッコミを入れてから、彼女は訪問した本題を切り出した。
ずるい人。
あなたと出会わなければ、特に未練もなく街を守る為に命を捧げることができたのに…
デリカシーゼロの彼は交尾の気持ち良さに未練ができたと思うが、どれだけ気持ち良かったとしてもやはりただの動物にさせるオスへの忌避感が拭えないキアは、彼の覚悟に新しい感情を芽生えさせたのだ。
勝ち目などないのに刀の鞘に手をかけ、食べられるのを食い止めようとしたあの覚悟。
自分のために命を懸けようとしてくれたことで恋に落ちたキアは淡々と告白し、明日に備えて帰ろうとした。

しかし彼は呼び止め、初めての乙女心を否定したのだった。
































