アルクが何も答えずに出方を窺うのならそれで良し、キャシアは構わず他国の情報を提供してくれる友人には事欠いていないと漏らし、アノールは瘴気に侵されたゴーチェ特産のプラムを食べて身体を壊したのだろうと指摘した。
そしてアルクの目的が、身分を偽装して瘴気が原因の病気を治すための情報を手に入れに来たのだろうともいう。
そこまで見抜かれていてもアルクは認めるような言葉は漏らさず、吟遊詩人になれる想像力だとバカにした。
さっきの部下が殺気立つがキャシアはそれを制し、勇ましい若き領主への敬意も何もなく、頬を掴んでなぜ生きているのかと問うた。
この時点でまだ確信を得ていないアルクは、質問の意味が分からなかった。
アルクに分からせるように、キャシアは瘴気により多くの者がこの一年で命を奪われた中、大公や部下の弟、騎士団員の全てが父や兄、弟や息子を失っていると打ち明けた。

そこでアルクは感じていた違和感の正体と、キャシアの説明で死んでいる者が男しかいないことを繋げた。
理不尽にアルクを投げ飛ばしたキャシアは、この領地に入ってから何か気づいたことはないか訊いた。
だからアルクは、なぜ自分が生きているのか不思議がられた意味を理解した。
キャシアが合図すると、その場にいた兵士たちが兜を脱いで素顔をさらけ出した。
男だけを蝕む瘴気により、女だけの国になってしまったゴーチェ公国。
兜の下の素顔は、皆気が強そうな美しい女たちだった。

女だけになってしまった国、ゴーチェ。
国中に満ちた瘴気により男だけが蝕まれて命を落としていったのに、領地内にいるアルクがなぜか生きている不思議。
それを無視できるはずのないキャシアは、どうやって瘴気を防いでいるのか問い質した。
アルクは黒竜の加護のおかげで命拾いしていることを、すぐに気づいた。
その微妙な表情の変化を見逃さないキャシアは容赦なく剣を抜いて喉にあてがい、白状しろと迫った。
まさかの事実を知ったアルクも唯々諾々とは従わず、情報を渡す交換条件に解放を要求した。
現時点で、瘴気の被害をどうにかできるかも知れない希望は、アルクだけが持っている。
アルクは、自分の命は国を救う希望になると言い換えた。
しかしキャシアもあっさり要求は飲まず、主導権は渡すまいと強気な態度を貫く。

男を殺し、国を亡ぼす瘴気から逃れるには、アルクの黒竜の加護だけが手なのか。
お互い引かずに沈黙が流れたが、キャシアが剣を収め、持久戦に持ち込むことにした。
ここは北国。
吹雪舞い降るゴーチェにて、暖房設備もない石造りの牢屋で一晩も過ごせば、命乞いするだろうと踏んでの判断だった。
それに空気中に漂う瘴気がゴーチェだけの問題で済むはずがなかった。

自国にも瘴気が流れる可能性を示されて脅されたアルクは、さすがに動揺を隠せなかった。
夜が更けても意外に寒がらずに普通に寝息を立て始めたウェンヌの傍で考えをまとめていたアルクは、男だけを蝕む瘴気への驚きがまだ残ったまま、手の平に黒竜の加護を現し、これのおかげで間違いないだろうと思った。
その時、牢屋内に黒い靄が湧き出てくると、激しい挙動を見せた直後にラティがひょっこり出てきた。




































