79話
怜人が奇跡の生還を果たしてから数日、もうすっかり元通りの彼はそわそわと落ち着かず、ワクチンの完成をまだかまだかと待っていた。

絵理沙に落ち着くよう注意されたその時、人類最高クラスのブレイン、シン博士が出てきた。
そして不安そうに問うアナ姫たちに向け、出来上がったばかりのワクチンを見せたのだった。
ただ、これで全てが解決できるわけではない。
大量生産を可能にしなければならないし、まずこれが本当に男性に効くのか人体実験の必要がある。

するとアナ姫がキュッと口を引き結んでから覚悟を決めた表情で、ある人物を被検体にするよう進言した。
それは父でありロスアニアのトップである大公だった。

まさかの人物に、絵理沙は言い難そうにそれは賛成しかねる人選なのを伝えてみた。
まずワクチンが効くかどうかも分からない段階で、万が一、被検体が亡くなってしまうことを考えたら、政治的観点からも国のトップを選ぶのはリスクが高すぎると言ってみた。
もちろんそんなことは理解している姫は、だからこそ大公が身を挺すことで、ロスアニア黒幕説を払拭する材料とすると共に、まず最初に回復して国としての声を諸外国に発信する役目を担ってもらうのが最善だと考えていた。
それに、父が亡くなっても次は兄を選ぶつもりだという。
締めには彼らに申し訳なさを感じさせないよう、ニッコリ微笑んで、でなければ父に叱られてしまうと続けたのだ。

健気で勇敢で覚悟を決めた姫の選択に物申すのは野暮だと思い知った絵理沙は頭を下げ、敬意を表した。
これで、アナスタシア大公が最初にワクチンを試されることが決定した。
人が多くいなくなっても煌びやかさはそのままの宮殿内、医療施設、カプセル内でコールドスリープに入っている大公は穏やかに身体を蝕まれている中、さっそくワクチンを注入された。
はたしてスリープを解除すれば、ワクチンが効いているかどうか一目瞭然で分かる。
血反吐を吐くか、何事も無く目を覚ますか。
覚悟を決めた姫は、自らの指で解除ボタンを押した。




































