172話
轟を待ち受けた彼は、飛び降りてくる相手から目を離さなかった。
轟は豪快にトランクを押し潰しながらひしゃげさせると、彼はシーソーのようになった反動を利用し、前方にアクロバティックにジャンプした。
そして空中でしっかり体勢を整えて狙いをつけた。

轟に踏まれた車はぐるんと一回転しそうになり、車体の裏側を露わにした。
その瞬間、彼の散弾が車体に穴を開け、大爆発を起こした。
そして黒煙と爆風が激しいうちに全速力で逃げた。
車の爆発なんて僅かに注意を向けさせるくらいしか効果がないと割り切った彼は、今一度冷静に作戦を立て直す時間が欲しかった。
程なく彼は車体上部が削がれたバスに追いついた。
不幸中の幸いでエンジンがかけっぱなしになっていたが、車内を一目見て、バスと同じく身体の上部を失っている避難民たちに気づいた。

そこでは悲しみ以上に、圧倒的な恐怖に襲われた。
運転席に座ってアクセルを踏み込んだ彼は、どうすれば逃げきれるのか考えた。
バスより速く轟が走れるなら、山形に着くまでの一本道では追いつかれるのは必至。
いや、今は自分の無事よりも最悪な場合は何だと巡らせ、一足先にらぎ姉がバイクで出発したのなら、轟を隔離地域外まで連れていくことが最悪だと判断できた。
それをどう回避するかに思考を変えたその時、ながみんが呻き声を漏らし、まだ生きていたことに気づいた。
直後、橋に通りかかり、ある作戦を思いついた。

磊々峡は秋保を分断する名取川が流れる谷で、紗月とデートした思い出の場所で、先日の雨で増水しており、流れは秋保中心に向かっている。
彼は希望に目を輝かせながら、まともに動けないながみんを担ぐと、橋の柵に近づいていく。
目を覚ましたながみんは、水着だから泳げるだの、あれだけダメージを食らっても生きてるなら大丈夫だろうだの言われても、何のことかさっぱり分からない。
そのまま意味も分からず、川に投げ落とされてしまうのだった。

濁流にのみ込まれたながみんの姿は、一瞬でどこにいるか分からなくなった。
ながみんで実験した彼はバッチリだと思い、完璧に覚悟を決めた。
このまま少しだけ轟に姿を見せ、川に飛び込めば、秋保の中心地まで追いかけざるを得なくなる。
自分たちは隔離地域内から出られなくても、脱出組が助かればそれで良かった。

程なく、轟が爆走列車の如く追いかけてきた。
彼は素早く川に飛び込もうとするが、轟は何か鋭利そうな破片を握っており、投球フォームに入っていた。
計算外だった彼がヤバいと思ったその時、轟は投げずに止む無く狙撃を防ぐ防御体勢になった。
そんな正確無比な狙撃をできるのは、らぎ姉しかいなかった。
最優先で守りたい一人のらぎ姉がまだ逃げていないと知った彼が青ざめると、犯人は容赦なく不思議な力で一軒の建物を土から浮かび上がらせ、遮蔽物を消した。
あえなく姿を曝け出さされたのは、愛する人を最後まで守らんと逃げなかった、健気な女子高生だった。

































