12話
成体のデカさはまさに高々と見上げるレベルで、威圧感は戦車のそれ。
鎌の射程圏内に入っているのを察した睦美は動こうにも動けず、どうすべきか考えた。
後ろから呼びかけようものなら、今ばかりはキッと睨み返して沈黙を促し、緊張感を伝える。
睦美は未だかつてなく、昆虫に恐怖していた。

しかし昆虫のことを何も知らずに怖がっていた子供の頃、先生と知り合うきっかけになったのもカマキリだったと思い出し、今はちゃんと知識を持っているんだと切り替えた。
カマキリはこう見えてゴキブリの近縁で、攻撃に特化した大型化により生き残ってきた種族。
身体全体がセンサーとして機能する全方位に隙がなく、特に360度を余裕で見渡せる複眼だけでなく、動体視力を兼ね備えた単眼も前頭部に三つあり、それが獲物との距離を測って素早い攻撃を可能にしている。

単眼と複眼により隙のない視界と、頭と尻の触覚でも風を感じている。
カマキリとゴキブリが近縁種と考えられているのは、両方の特性を併せ持つキノカワカマキリという擬態する種が発見されたためであり、ただそれは幻レベルの種だった。
動き、振動、匂いを高感度で察知する恐ろしい巨大カマキリ。
睨み合いを続ける睦美は比較的センサー感度が低い尻側に注意を向けさせるしかないと思い、ゆっくり鞄に手を伸ばした。

そして風のそよぎでバナナの葉っぱの揺れに注意を逸らした瞬間を狙い、ペットボトルの水を投げた。
地面で跳ねたボトルはうまく幼体カマキリが群がるネットの方に転がった。
それに幼体が反応して動いた直後、成体も本能のままに動く幼体に襲いかかった掴み上げ、容赦なく共食いを始めたのだった。

すると新たな幼体の群れも成体の動きに反応して一斉に襲いかかった。
離脱する絶好のチャンスを無事に作れたはいいが、社に戻るにはカマキリが暴れ回る方向に行かねばならずに諦め、反対方向の学校に避難することにした。
カマキリたちに申し訳なく思いながら睦美が離脱しようとしたその時、成体は群がる幼体を吹き飛ばすために羽を広げた。
そこにはカラス避けのような黒丸の模様があった。
そこにあるはずのない眼状紋の出現に睦美は驚愕した。

ハラビロカマキリの羽には本来、巨大に見せる眼状紋はないはずだが、この成体ならヤンマとも渡り合えそうだと睦美は感じた。
カブトムシ同様、計り知れない進化をし、ゴキブリの能力も備えたカマキリとの遭遇だった。


































