193話
正義を拗らせた通行人にリンチされて死んだはずの螢。
実は犠牲になったのは螢の身代わりである影武者で、見た目はもちろん歯型まで整形して天宮螢になり切っていた人物だった。
総理はまさかの戦後時代みたいな存在に驚くが、螢にとっての影武者は単なる駒ではなく、こういう事態に備えてきた彼の死は悼んでも悼みきれない損失だった。

総理は僅かでも浮き立った心を引き締めると影武者の仇を取ろうと声をかけ、作戦室に連れて行ってもらった。
そこで今度はアメリカ大統領ともコンタクトを取って協力体制を築いていると言われて驚くが、それに続くもう一つの耳を疑う事実にもっと驚かされた。
螢の母である天宮渚が保菌者騒動の犯人だという情報を手土産に、アメリカと手を組んだということに。

螢があまりに落ち着き払って説明するせいで、総理の驚愕はさらに大きくなる。
螢も自分の母が犯人だと分かっても、平凡な主婦のはずの彼女が未曽有の極悪人だなんてまだ信じがたい気持ちだった。
それはそれとして、総理と合流するなりさっそくアメリカとの関係に摩擦が生じようとしていた。
総理の到着に合わせて通信を繋げたのだが、大統領は協力関係を断ちたいと言い出したのだ。
すると螢は冷静に、ミサイルについて仄めかすよう通信士に指示した。

すると大統領は通信に応じ、ミサイルについて指摘してきた螢の情報網に苦笑いした。
大統領は隔離地域にミサイルを撃ち込むため、同盟関係に傷がつかないように中国に日本の対空迎撃の情報をリークし、中国に撃たせようとしていたのだ。
看破された大統領はぐうの音も出ないが、螢はむしろ中国にはミサイルを撃たせた方がいいと受け入れた。
それは螢も隔離地域に犯人がいると思っているからで、攻撃を防いでくれればそこにいる証拠になる。

逆に隔離地域にいてくれなければ他に心当たりがなかった。
更に螢はアメリカ政府や軍の全員に信用されていないことも分かっていた。
何しろ犯人の息子なのだからそれも当然、大統領も心を許したわけじゃないが、螢の提案する作戦が犯人打倒の可能性が最も高いことも理解していた。
だから大統領は、今まで通りに協力体制を取るが、それとは別に隔離地域に部隊を突入させてもらうと求めた。
螢はそれも甘んじて受け入れ、情報共有だけは約束させた。
その辺りで総理と大統領は初めましての挨拶を交わし、日本とアメリカのやり取りは終わった。
総理になりたての金平が大国トップとの会話で一気にドッと気疲れしたところで、螢は自分の作戦の説明をし始めた。
その内容は紗月たちが話していたものとほとんど同じだった。
犯人に対抗する戦力を維持するため、世界に保菌者への対策方法を広めること。
何世紀分も先を行ってそうな犯人側の科学力に追いつく研究。
犯人の居場所を特定し、維持した戦力と科学力で実際に倒す。

特に一番難しそうな科学力の研究に関しては地下研究所のものを引き継ぎ、既にアメリカに資料を渡していた。
そして完全にお飾りの総理は一休みの前に螢に全てを委ねたが、世界を任された螢にとって、最も大事なのは弟妹だった。
一方、夜明けを迎えたばかりの晴輝はながみんに見送られて出かけたが、彼女がやけに楽しそうに晩御飯に期待を抱かせる意味が分からなかった。

































