アルクの祖父に言われた、昨日のことのように思い出せる一言。
フェラリスは圧倒的な寿命の差に、世の無情を改めて感じるのだった。
それから更に奥に進んで程なく、サラマンダーに追いついた。
二人は武器を構えてスッキリ止めを刺そうとしたが、サラマンダーが最後の力を振り絞って這いずっていく先には、サラマンダーの我が子と思われる卵があった。
里を滅ぼさんとした凶悪な精霊だとしても、もしかしたら我が子が危険と感じた故の襲撃だったのかも知れない。
卵を舐めたサラマンダーはそれが本当に最後の力だったようで、瞬く間に霧に変わり始めた。
そして消え去る直前、確かにアルクの目を真っすぐ見つめたのだった。

霧が消えて現れたのは魔法陣が彫られた魔石で、やはり誰かに操られていた証拠なのかも知れない。
しかしそれはそれこれはこれと考えたフェラリスは、非情にも卵も叩き割ろうとする。
まだサラマンダーの子供と決まった訳じゃないのでアルクが取り上げ、今のうちに壊すべきだと荒ぶるフェラリス。
その時、親の最後の一舐めでパワーをもらったのか、卵を破って可愛いドラゴンベイビーが生まれたのだった。

フェラリスは可愛らしい生まれたての赤ん坊だろうと容赦なく、ここで殺すべきだと言うが、小さな体を持ち上げたアルクは、トカゲは当家の紋章であり貰い受けると答えた。
またいつか荒ぶるモンスターになりかねない以上、フェラリスはとても認められないが、アルクはもう意志を変えず、サラマンダーは魔石で操られていただけでこの幼生から悪意は感じられないと言い返す。
それでもフェラリスが認めようとしないので、サラマンダーベイビーは里を助けた報酬にさせてもらうと言い換えた。
ジョアンナが神樹の延焼を防ぎ、里の家の火事を鎮火し、セリーヌがサラマンダーを斬って仕留めた。
だから主たる自分が報酬としてベイビーを貰うという、認めざるを得ない理屈を持ち出したのは、イルミン樹は次に後回しでいいと思えたからだった。
そんなアルクのベイビーを慈しむ表情にドキッとしたフェラリスは、悲しい思い出が蘇って涙が溢れた。

人間が嫌いだと事あるごとにアピールするフェラリス。
そうなったのは、アルクの祖父が大きな原因だった。
かつて短き者たちが住まうナーガラ領に遊びに行ったことがあるフェラリスは、見た目だけはまだ年端もいかない少女のようだった。
お洒落して足取り軽く、初めての街に踏み入るなり、あの人と会えるのが楽しみでワクワクウキウキとしながら、目についた住人にナーガラ伯の居城の場所を訊ねた。
住人は快く教えてくれたのだが、フェラリスは自分が知っているナーガラ伯はもう亡くなっていることまで知ったのだ。

エルフにとってはちょっと久しぶりに会う程度の感覚でも、人間にとっては長い時間が過ぎていた。
だからとてつもない悲しさと寂しさを感じたフェラリスは、仲良くなって別れる時の悲しみを大きくするよりは最初から距離を置こうと考えるようになった。

しかし逆に、本当に嫌っているわけでもないのに仲良くできないのは、双方にとって悲しいこと。
咽び泣くフェラリスの肩を抱いたアルクは、エルフより短命だからこそ意義ある時を生きようともがくのだと伝え、意義ある時間にするにはフェラリスと仲良くする必要があると口説いた。

その一言で心に纏わせていた氷が砕けたフェラリスは、ノヴァルスが言っていた温かい言葉を思い出し、アルクが血を受け継いでいることを実感した。
そして異種族同士で仲良くすることを受け入れ、服を脱いで祖父にも触らせていない穢れなき裸体をさらけ出した。



































