238話
能力を食らった晴輝は瞬時に、脳内情報を瞬時に理解させる特に攻撃的要素のないものだと察するが、自分が最初に手をかけた軍人がどうして保菌者騒動に加わったのかの理由を知り、なぜ正しいと思ったのか理解できずに嫌な汗が噴き出た。
エリックの俺物語は、神と呼ぶ渚と出会う以前から始まった。
平和主義意識の高い少年だったエリックは、それでいてプラカードを掲げてデモ行進するような他力本願な連中を蔑んでいた。

戦争も必要なのだと考えていたエリックは、そんな奴らはまさに口だけで殺されても文句の言えないバカだと見下していたので、自分はそうでないことを示すために軍隊に入った。
アメリカ軍こそ絶対、アメリカが誇る国民のアイデンティティだと妄信し、意気揚々と外国の任地に赴き目の当たりにしたのは、尊敬すべきベテラン兵が現地人で欲望を満たしている胸糞悪い光景だった。
まさに鬼畜外道が行うゲスの極みで、誰も咎めず、誰もが日常的に人間の尊厳を奪って楽しんでいた。

エリックは思わず捕虜の扱いに対する条文を泣き叫んだが、ただぶん殴られただけで、結局アメリカ軍の闇を世間に公表してアメリカ軍人が救いようのないクズだと証明するのは、己もその一員としてプライドが許さず、だから清廉潔白な軍人として闇を払っていった。
そうして名実共に真の愛国者を名乗れるようになったが、尊敬するベテラン兵がなぜ外道に堕ちたのか、答えを導けていなかったので、理解するために同じように救いようのない外道に堕ちてみたのだった。

結果、人を屈服させ、尊厳を奪い、不幸に落とす行為がとんでもない快楽を与えてくれることを知り、ベテラン兵はやはり尊敬すべき先達だったと思い知った。
快楽のためなら人殺しも正義になる思考回路に至ったエリックは、当然デモ行進隊をターゲットに定め、平和活動家は自分たち悪より劣る無価値のクズだと断罪して嘲笑えた。
悪行為でしか幸せを感じられない、だからこの世の中は生きづらい。
真の平和とは悪人も悪行を行えて生きられることだと思い至った。
しかしエリックに完全犯罪の才能はなく、やがて悪行が露見してポリスに追い詰められたその時、どこからともなくか弱い日本人女性にしか見えない天宮渚が現れてポリスを退散させ、何かに勧誘してきたのだった。

もう捕まる心配がない状況になったことで強大な権力でも使ったのかと思ったが、権力やトリックでは説明できない体験をしたエリックは怯え、驚愕し、すぐに畏敬の念を抱いた。
一瞬で高山の中腹にいたかと思えば、雲を見下ろすほぼ宇宙空間で地球の丸みを実感させられ、次には月にいてその青さを焼き付けた。
それらの瞬間移動の間、渚はエリックの理想を素晴らしいと認めながら、人類を劇的に進化させる目的のために命を使ってみないかと勧誘した。
それらの超常体験の結果、エリックは日本人熟女を神と崇めることにしたのだった。

そこまでの体験を追体験したかのように理解させるのがエリックの能力で、晴輝から逃げ切ったと思った彼は一息ついて更に走ろうとしたその時、右手足が斬り落とされて転がった。
見えない斬撃を放てるなんて高木しかいないと看破すると、見抜かれた張本人はあっさり透明化を解除し、エリックを悪だと断罪したのだった。


































