第27話 闇に燃えし篝火は
人類の存亡をかけた戦いから10年の月日が経った。
早希は、あの時の惨劇が人間の愚かしさに因るものだと知り、二度と繰り返されないように手記にしたためていた。
あの日から二年後、覚と結婚し、更に三年後町の最高責任者に任命され、その二年後には、新見翔と鳥飼進が率いる調査隊が、悪鬼と業魔関連の資料を見つけるため、北米大陸に旅立っていった。
そして去年、覚はついに科学技術を引き継いだ人類の遺跡を発見した。
それら前に進んでいる人類の歴史を記している早希は、現在覚との子供を身篭っていた。

捕えられたスクイーラは、やがて裁判にかけられた。それは裁判とは名ばかりの、生き残った住人の罵倒と、惨たらしい刑を言い渡されるだけの場だった。
何百という人間に囲まれ、罵詈雑言の嵐を受けても、彼は物怖じせずに言い放った。
「私は獣でも奴隷でもない。私たちは人間だ」と。

その言葉は嘲笑の渦を起こし、戯言として掻き消えた。そして彼には無間地獄という終わりのない苦しみが与えられることになった。
それから七年。
調査隊が出発する直前に、早希、翔、進は覚に呼び出されていた。出発を控えていることもあり、覚はすぐに本題に入った。
バケネズミを作ったのは、数百年前の科学技術を受け継いだ人類だった。
彼らは、超能力者が非能力者を支配した奴隷王朝に学び、バケネズミを作り出した。女王を頂点とし、管理しやすく醜い外見に親しみを覚えないのを利用して・・・
覚から聞かされた真実を胸に、翔と進は出陣式に登壇した。人類の希望を携えた調査隊を送るため、多くの住人が集まっていた。翔はいきなり恐ろしい真実を話し始めていく。
悪鬼や業魔が生まれる原因は、周りの人間から漏れ出す微量の呪力が原因になっている可能性が高い。そして七年前に起きたあの惨劇は多大なストレスを与え、それが呪力流出に大きく関わっていると。あの惨劇以降に生まれた子供たちは、早くて五年後頃に呪力に目覚める。つまり、その時こそ人類が滅ぶ時だと。
そう聞かされた大人たちは、怖気をふりながらも、また子供を処分すればいいだけだと、冷や汗を垂らしながらそこかしこで話し始める。
しかし、その反応を取り続ける限り、人類に未来はないのだと知った翔は、怒号を上げる。

真の英雄と呼ばれていいのは自分や鳥飼ではなく、早希、覚、奇狼丸、そして業魔になりながらも戦い抜いた遥香だけだと叫んだ。
あの戦いはまさしく人類の最前線だった。この調査隊も人類の未来を左右する最前線に違いない。
では、町で暮らしている人々は最前線ではないのか?そんなことはない。
未来のため、希望を捨てずにいれば誰でも英雄になれるのだと、翔は出発前に人々の意識を変える演説をぶって見せた。
覚の研究結果によれば、バケネズミの染色体は23対であり、先祖であるハダカデバネズミの30対とは大きく異なっていた。
確かにデバネズミの遺伝子が組み込まれているだろうが、ベースにした生物が他にいたことは間違いない。
結論は、同じ23対の染色体を持つ哺乳類は人間だけだった。

バケネズミは元人間であり、超能力に目覚めなかった人間を遺伝子操作して生み出されたことが明らかになった。
つまり、あの戦争は人間同士で血を流し合っていたのだ。
超能力者同士で殺しあわないように攻撃抑制と愧死機構を組み込んだが、そのままでは非能力者を奴隷にできない。だから遺伝子操作し、人間と認識しない生物に作り変えることで奴隷に仕立て上げたのだ。

早希は出陣式を見に行かずに、スクイーラが囚われている記念館にいた。
人間の罪深さが生み出したバケネズミのスクイーラは、ミノシロモドキから人類の歴史を学び、自分達のルーツを知ったのだ。だから、あの裁判の場であの台詞を吐き出した。
早希は何が正しかったのか分からなくなっていた。スクイーラのように人権を勝ち取るのが正しいのか、奇狼丸のように愚かしい人間と共存の道を歩むのが正しいのか。
いくら考えても答えは出ないが、今は最も愚かしい行為に終止符を打つつもりで、この場に来ていた。
自分達から変わり、負の連鎖を断ち切るしかない。素晴らしい未来が待っていることを信じて・・・
早希はスクイーラを苦しみから解放した。その時、彼の姿が何かを訴えてるように浮かび上がったが、それは一瞬のことで幻だったのかもしれない。

身重の早希が手記を書き終えた頃、翔たちの調査隊が無事帰還してきて、神栖66町は再び歓喜に湧いていった。
早希は自分達の選択が正しかったのかどうか、千年後の誰かへと判断を託した。
感想
新世界より7巻にて完結です。
面白度:☆10 驚愕度:☆9
漫画版もおもしろかったです!独自のスパイス、オリジナルキャラの盛り上げ、絵の上手さなど、ぴったりの漫画家だったと思います。
やっぱり、翔と遥香が出てくると泣いてしまいます。




































