強引な最後のキス
この時はまだ本気で死ぬつもりも、もちろん誰かを犠牲にする気などなかった相沢だが、偶然にも真珠の部屋の前で周防と鉢合わせた後、周防がバラバラで見つかったことで真珠の犯行だと確信した相沢は、自分が虚しい立場にいることを思い知った。

周防への悪い印象を強くしようと誘導するアラタだが、しっかり汚い人間性を見せていた彼は真珠の中で本当に共感できる男として刷り込まれていた。
片やここに至ってもまだ、アラタは仮面をつけたまま独善的な終わらせ方をしようとしている。
それは真珠にとって周防こそが、愛した男としても共に逝くのに最適な人だったと理解しているからだった。

やがて真珠がシートベルトを外すと、アラタも一緒に逝ける確率を上げるために外した。
すると真珠は付き合い立てヤリ盛りなラブラブカップルのように、彼の太ももに頭を預け、心地良い時間だった母の耳かきを思い出した。

母の歌声、褒めてくれた歌声。
幸せのピークだったかも知れない頃の、あんな小さな頃の記憶が蘇るのは、歌声がいつまでも色褪せないから。
代わりにハンドルを握りながら歌い始めると、さすがの目敏さでノーシートベルトを見逃さなかった覆面パトが追いかけてきた。
警告の声とサイレンの音など聞こえないようにアラタは更にアクセルを踏み、真珠は忘れられない新たな思い出を耳に刻む。
それと同時に自分も歌ってあげたい感情が盛り上がっていくと、周防にも歌ってあげたかった気持ちも蘇り、彼が本当に好きだったとはっきり自覚したのだった。

好きだったのに殺してしまった後悔。
生きていて欲しかったと思っていたはずの心と相反する行動で、二度と取り返しのつかない結末に。
ついに本心を自覚した真珠をまた別の絶望の中で最期を迎えさせないために、ここでは軽い言葉にしか聞こえない説得で引き戻そうとするアラタ。
しかし仮面を外さなかったツケがここで回り、真珠からのトキメキと信頼を一気に失ったと思える野良猫のような目で見つめられてしまう。
それはあまりにも寂しいアラタの執着も加速し、無理やりに唇を押し付けた。

その感触に違和感を覚えたのか真珠が突き放した直後、ハンドル操作を忘れられた車は分かれ道の緩衝体に突っ込んでしまうのだった。
シートベルトをしていなかった二人は派手に車外に投げ出され、衝撃をもろに身体中で受け止めてしまう。
薄れゆく意識の中、アラタは微かに歌声が聞こえた。

衝突の直前に踏んだブレーキ、それはやはり死にたくないと思った本能的な反射か、この相手とは死にたくないと選んだ拒否か、それとも相手を死なせたくなかった冷静な判断か…
感想
夏目アラタの結婚11巻でした。
面白度☆8 鳥肌度☆9
いつもと変わらずに寝てフッと逝くのが理想と思えば、車で突っ込むなんてまさに正気の沙汰じゃないですね。
次はいよいよ最終巻、楽しみで仕方ありません。



































