27話
焚火を熾し、薄暗がりの中のアークメイジはゴブリンを解剖し始めた。
胃、小腸。
それを彼に知っているか質問しながら食べ物の分析ならここだと教え、続いて膀胱、精巣と手を伸ばし、何とも言えない大きさの陰茎を女泣かせだと評した。

結局のところ、ゴブリンにメスはいないと言うことがこの場でははっきり分かった。
彼がアークメイジの作業が終わるのを待つべきかどうか判断に迷っていると、彼女は残党がいる可能性を指摘した。
それが何を促しているのか分からないが、助けた娘をまた地獄に戻したくない気持ちは同じなので、それが最善だと思い、アークメイジに腑分けを急がせた。
解剖を進めるにつれ、臓器の位置が人間と大差ないことが分かったが、他の種族の身体を調べたことのないアークメイジに分かるのは、あくまで只人との差だけだった。
肝。
それは確実に急所になる部位だが、彼は以前、腹を裂いても倒し切れなかったホブを思い出した。
アークメイジの見解では、単純な体力の多さ、肉は裂けても即死ほどのダメージではなかった可能性があるということだった。
そして確実に一撃で殺すなら、腿、脇の下、首の太い血管を狙えばいいと教えた。
どれも闇雲に剣を出せば当たると言う場所ではなく、彼は練習の必要性を感じた。
解剖が一通り終わると、近くに落ちていた鞍を見つけ、二人は狼に乗るゴブリンライダーを思い描いた。
見様見真似か誰かに教えられたか、ゴブリンがそうして学んでいくように、寒冷地に暮らす只人は環境に応じて身体が大きいのだとアークメイジは語る。
姉から聞いて何となくは知っていた彼を、焚火の傍に腰を下ろしたアークメイジは横に座るよう、地面をポンポンと叩いて示した。

だが彼は近づき過ぎず遠すぎず、正面に腰を下ろした。
徹底している彼に思わせぶりに二ヤリと微笑んだアークメイジは、リザードマンの師匠から聞いた話を語り始めた。

普通のゴブリンとは違い、何倍も巨躯なホブ。
先祖返りというならば、昔のゴブリンは穴倉生活ではなく野を闊歩していた。
そして現在のゴブリンも勢力を拡大すれば村を襲う。
いつしか只人と変わらぬ恵まれた食生活を手に入れれば、それはホブが特別でなくなるおぞましい光景に繋がる可能性があった。
魚の個体と群れに関する研究。
それを例に出してゴブリンに当てはめたアークメイジの語り口を奇妙だと評した彼に、彼女はリザードマンが師匠なのだから異端なのだと改めて答えた。
リザードマン、レーア、ドワーフ、エルフ、イモータル、そして竜。
種族ごとに知識の蓄え方が異なっている点に言及したアークメイジは、書物の1ページを綴る凄さがどれほどのものか考えさせ、竜から得られる知識とゴブリンの生態を追い求める圧倒的な差を比べ、穏やかに微笑んだ。
彼は相変わらずの「そうか」で済まし、薪が爆ぜる音の中にゴブリンの足音がないのを確認すると、アークメイジの吐息、娘の寝息、ゴブリンどもの不快な臭いの中に仄かに甘い林檎の香りを嗅ぎ分けた。
ゴブリン語の有無。
捕虜を嘲り笑っている光景を見たことがある彼はゴブリンが会話していると信じ、かつどれだけ知識が得られても書物に著すつもりはないと言い切った。
そんなことをしている暇に、ゴブリンが村一つを滅ぼすからだった。

それに、ゴブリンがどこから来るのか姉に教えてもらって知っている彼は、本で後世に知識を残すより、自ら殺せるだけ殺すことを第一としていた。
博識なアークメイジが御伽噺の類だろうと小バカにしても、彼に笑う理由はなかった。

娘を背負って入口に進む間、残党が戻ってくることはなかった。
穴倉から外に出れば、太陽の光が燦燦と出迎えてくれた。
討伐と知識の探求。
過程と行き着く先が同じ場所でなくても、旅は道連れということで、アークメイジは娘を村に送り届ける彼の後について行った。



































