買い物が終わると、いい感じに空が茜色に染まり始めていた。
試着したのにそのまま着替えて出てきたマリアは、雰囲気のいい川辺を歩きながら、白衣を入れた袋も持ってくれている彼に諸々のお礼を伝えると、彼も爽やかな笑顔を返した。
そして夕陽を眺め、月が綺麗ですねと勘違いしてしまいそうな感じで、夕陽が綺麗だねと声に出した。
爽やかな笑顔から一転、夕陽を見る彼の横顔はキリっと引き締まって見えた。
隣に立ったマリアはチラっと見上げ、スカートをギュッと掴んで自分に気合を入れた。
そしていきなり彼に後ろから抱きつき、速くなるのを止めらない鼓動に身を任せ、見られたら爆発しそうなほど顔を赤くして、もう一つお願いがあるのだと切り出した。

背中から伝わる熱と鼓動でドキドキしながら、平静を装って訊き返す彼。
もう一つのお願いも勇気を振り絞って言葉にしようとするマリアだが、いつにも増して言葉がつかえ、「マ」を10回以上繰り返してから、何とか搾り出した。
黒田さんじゃなく、マリアと呼ばれたいことを伝えた。

マリアのささやかの願い。
下の名前で呼び合うだけの、小さな前進。
それを搾り出してから宮殿内のレストランに入った二人は急激に緊張感が増し、彼もお願いされて改めて「マリア」と呼ぶのが気恥ずかしくて仕方なく、同じようにどもりまくってしまった。
せっかく関係を一つ深くできたのに、交わす会話は何気ない内容のみ。
それがマリアとの時間らしくて悪くない中、小さなメイドさんがお水のお代わりを注いでくれた。
でも、まだあどけない少女が何を言っているのか分からない。
おそらく美味しいか訊いているんだろうとマリアが推察するので、彼は取りあえず英語で返して親指を立てて笑顔を見せた。
すると少女もニッコリ微笑んでくれ、テーブルの緊張感をかき消してくれた。
この店の子供だろう少女の制服姿がなかなか様になっていて、幼きまひるを思い出した彼は可愛いなと漏らした。
それを聞き逃さなかったマリアは、いい考えを思いついた。

食事を済ませてからホテルにチェックインして部屋に入ると、マリアはこのデート期間において女性陣の中で取り交わしたルールを伝えた。
それは至極シンプル、自分の時間で彼とナニをどこでどこまでしたか言ってはならず、誰も訊き出そうとしてはならないというものだった。

彼にとっても全てが筒抜けになるより精神的に楽なので、そうなんだで済ませられるルールだった。
そしてマリアは特別な今日をきっちり締め括るため、お着替えに退室した。
一人部屋に残された彼は、二人でお泊りする以上、マリアもここで仕掛けてくるつもりなんだろうと思わずにはいられなくなった。
一体、どんな格好に着替えてくるのか?
用意された高級パジャマで日常の可愛さ押しか、飾り気がない下着姿であえての地味さを強調か、それとも正攻法の全裸で一緒にお風呂の身体的密着か。

なんだかんだ期待してしまう彼が妄想を巡らせているうちに、着替え終わったマリアが戻って来た。






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