105話
小夜子はライフジャケットを膨らませる余裕もなく、海の底へ沈みゆこうとしていた。
千歌は急いで潜り追いかけるが、小夜子は意識を失っており全く反応しない。
逆に海水を無駄に飲み込まなくて済むと思えばリスクが減ったとも言えるが、悠長にしている時間はない。
千歌はすぐに小夜子のと自分のライフジャケットを膨らませ、急浮上した。

何とか海面に浮上できたが、離岸流が発生しているのかかなり流れが速く、泳いで岸の方に戻るのは無理そうだった。
仲間たちから離れた後での転覆のせいで、声の届く範囲に誰もいない。
千歌は思いっきり叫ぶが、やはり誰の耳にも届かないようだった。

双眼鏡で視姦していたヒゲ爺だけが唯一異変に気付き、すぐに西に連絡を入れた。
転覆したらしいと知らされた西は教えられた方角に目を向けるが、カヤックも人影も見当たらず、焦りが募った。
霧子たちも異変に気付いて騒ぎが大きくなりかけるが、西は他のメデューサには羽黒に戻れと指示し、自分たちだけで捜しに行くことにした。
釣りバカだけあってこの辺りの潮の流れを把握していた西には、おそらくの心当たりがあった。

ライフジャケットを着ている以上、簡単に溺れることがないなら、4キロ先の小島に流れ着いている可能性が高かった。
西の予想通り、ライフジャケットのおかげで二人は小島に漂着していた。
まだ意識を失ったままの小夜子を砂浜に運んで声をかけた千歌は、うんともすんとも反応しない小夜子が呼吸していないことに気づいた。
そしてすぐに唇を合わせ、息を吹き込み始めた。

千歌は後悔した。
自分を責めて謝ってきた小夜子の目を見れなかったことを。
どれだけ小夜子が気に病んでいたのか思い知った千歌は、自分だけが嬉しい気まずさにドギマギしていて相手の気持ちを考えなかった独りよがりさにも後悔した。
こんな擦れ違ったままで小夜子と別れるなんてあり得ず、心から願いながら息を吹き込み続けた。
すると願いが通じ、小夜子がゆっくりと目を開けていった。
そしてはっきり意識が覚醒すると、何故か千歌にディープキスされている状況が飲み込めず、驚きと嬉しさに顔が茹蛸のように赤く変化した。

蘇生を確認した千歌が顔を離すと、二人の口が唾液で逆アーチを描いた。
喋れるようになった小夜子は、一体自分に何が起こったのか訊ねたが、千歌は何も言わずに目を覚ましてくれた喜びに気持ちが溢れ、しっかと抱きしめた。
良かったと涙を流しておでこをくっつける千歌を見て、転覆して溺れたのを思い出した小夜子は、自分の不甲斐なさと感謝がこみ上げ、同じように涙を溜めた笑顔で「ありがとう」と返した。
その表情が何とも言えず可愛すぎて、千歌の中でキュンキュンした欲望が湧き上がり、気づけば啄むようなキスをしていた。
今度こそはっきり驚けた小夜子がどうしてと訊くと、千歌はさっきちゃんと答えられなかった言葉をはっきり伝えた。
相思相愛なのを確認し合えたうら若き乙女たちは、そのまま雰囲気に任せてキスの続きをし始めた。

音を立てて唇を触れ合わせるだけのキスから、徐々に舌も絡めた深いキスに変わり、口を大きく開けて舌を伸ばし合い、咥え込み、まさぐり合ういやらしいキスへと。
千歌の方からぐいぐいと舌を絡めて押すように行くと、どちらからともなく横に身体を倒し、続けて手でも相手の身体を探り始める。
舌は変わらず絡めたまま、まず小夜子の手が千歌の陰部に到達し、既に濡れている中に指が飲み込まれた。
千歌は短く喘ぎながら小夜子の中にも指を挿し込み、同じような喘ぎ声と愛液の音で耳でも楽しむが、肌を密着させればお互いの高鳴る鼓動でも盛り上がれた。

これからがクライマックスだというその時、いつの間にか傍に立っていた美依那に声をかけられ、千歌は目が飛び出るほど驚いた。
羞恥心への耐性はまだまだ千歌の方が低いのがはっきり分かったのと、一応、美依那の気遣いは方向性が違ってもちゃんと報われたのだった。
千歌と小夜子が気持ち良くなり、西がイイモノを見れたカヤックフィッシングはこれにて終了。
楽しみながら釣り上げた魚と朝採れ野菜で霧子が新鮮なご馳走を用意してくれ、メデューサたちはテーブルを囲んで舌鼓を打ち始めた。
頭部がそのまま盛り付けられているウツボの刺身を恐々口に運んだ千歌は、フグと似ているのが分からなくても、とにかく美味しいのは分かった。

霧子は寒ウツボへ期待しながら、フグが好きだった瀬里に思いを馳せた。
一方、どこかの山中。
甲高い発砲音の後に、鹿が一頭ヘッドショットで撃ち殺された。
そこから300m離れた場所で銃を撃ったのは、怪しげな男にハリシャと呼ばれた真希だった。



































