44話
鏃がエルフの太ももに残されてしまった。
毒はなさそうで物理的ダメージだけのようだが、体内に残ったままでは治癒術で傷を塞いでも、やがて中の肉が腐って足を失ってしまう。
最早取り出すしか危機を乗り切る方法はなく、彼が手早くナイフを炙って取り出す準備を始めると、エルフはせめて帰ってから然るべき場所でやって欲しいと駄々をこねる。
するとドワーフとリザードマンが最悪の事態を想像させて脅かし、半強制的にエルフに受け入れさせた。

消毒に酒をかけただけで、絶叫したくなるほどの激痛が走る。
布を噛んだエルフは、できるだけ彼が痛くしないでくれることを願うしかなかった。
熱いナイフが傷口に侵入し、更に広げて出血した瞬間、エルフはあまりの激痛に涙が溢れるが、暴れようにも叫ぼうにも仲間たちの配慮で身動き一つできず、ひたすら耐えた。

仲間の身体をギュッと掴み、彼も可能な限り早く鏃を取り出すと、すかさずリザードマンが治癒術をかけ、傷口が閉じていった。
乱れる呼吸を整えながらエルフはちゃんと足が動くのを確認するが、只人の荒っぽすぎる治療に愚痴を零した。
思わぬ大ダメージだったが、弓を撃てるかと問われれば強気に睨みつけながら撃てると返すほどの気力はそのままだった。

思わぬ反撃、残り少ない術、それでもまだ調べていない部屋がある以上、エルフもここで引き下がらなかった。
逃げずに立ち向かってきて、矢も工夫して手当てした痕もある今までにないゴブリンの対応。
より緊張感を強めながら先に進み、ちゃんとした扉で区切られている部屋に踏み込んだ。
しかし何があるというわけでもなく所々に腰掛けのように土が盛られている空間の中、奥の方に祭壇のようなものがあり、そこに令嬢と思しき女が乗せられていた。

駆け寄った女神官が息を確かめると、不幸中の幸いでまだ息があり、よく見れば薄っすら目を開けているようにも見えた。
これで依頼遂行は完了した。
ただし謎は残る。
令嬢の首に残された焼印の痕はこの巣のトーテムではなく、女神官が見たところによると緑の月だった。
外なる知恵の神、覚知神の御印。
この世界は数多の神々が見守っている盤上のゲームだと言われ、その神の一柱が覚知神だ。
知識ではなく閃きを授ける神だとされる覚知神は求める者にただ知識を授けるが、ほんの些細な負の感情を抱いた時につけこまれてそれを実現できる知識を授けられると、瞬時に世界を滅ぼすための行動に移してしまうという。
それを聞いたエルフは足より頭が痛くなってきた気がしたが、奇跡で治療されたゴブリンがいたのならここにいたのも確かにゴブリンで間違いないはずだった。
ゴブリン以外の知恵者が率いているにしては悪事がゴブリン並なのは解せない。
ゴブリン並の知恵で、ゴブリンを癒し、ゴブリンを率い、人を襲う混沌勢。
そこに宗教が絡んでいるのなら、ゴブリンパラディンとも言うべき存在かも知れなかった。




































