196話
自衛隊と救助部隊の合同チームで突入することには納得する山田だが、目的が晴輝奪還の真意を訊ねた。
螢は隠し立てせず正直に、まず自分たちの母親の渚が犯人であることを伝えた。
この場で一番衝撃を受けたのは紗月で、螢は間違いないと念を押した。
天宮家と五月雨家の両親繋がりで渚についてそれなりに知っている紗月は、父が特別だと言っていたのを思い出すが、渚が犯人なら最も気になることがあった。

それは晴輝も知っているのか。
訊かれた螢が弟も知っていると言うので、紗月は想像だにできない彼の心情に思いを馳せた。
噂の彼は悪夢を見ていた。
保菌者騒動が起こる前の教室、同級生たちはずらりと椅子に座っていて、一人だけ消防服の彼はおはようと誰にでもなく声をかけた。
すると振り返った同級生たちはみな感染していて、疑問をぶつけてきた。

死んだ責任を押し付けられた彼は平然と座っている高木に助けを求めるがガン無視。
立ち上がったらぎ姉にも助けを求めると、見下ろした彼女の眼はうつろな空洞で血を垂れ流し、スッと屈んで目の前まで顔を近づけ、お前が殺したんだと恨み言を叫んだのだった。

これが眠るたびに見る悪夢だった。
ショックと恐怖で目を覚ました彼は、吐き気を催したまま、夥しい寝汗を流すためにシャワーを浴びた。
それも母を殺せば死んでいった者たちは許してくれるだろうと、希望とも言えない思いを胸に抱き、どうやってながみんのご機嫌を取り返そうかと悩んだ。
しかしながみんは道着に着替え、上機嫌で薙刀を触っていて、昨夜のことも根に持っていない様子だった。
根に持ってないと言うより前向きに協力しようとしているながみんは、今日から自分もついて行くと言い出すが、彼は変わらず一人で背負い込もうとする。

ながみんはママが喜んでくれた方法なんだと言うが、彼は何もしなくていいという。
それでも幸せを創り合う彼氏彼女なら、らぎ姉といた時に見せる幸せな顔を自分も引き出したいと粘る。
だから彼は罪悪感を消しつつ説得するため、言うことを聞かせるために彼氏彼女という肩書を使っただけで、本当の彼氏彼女じゃないとぶっちゃけた。
ついに彼を助ける大義名分を失ったながみんは、ママに助けを求めて号泣してしまう。

ながみんをまた悲しみの淵に落してしまった彼は後悔と罪悪感に襲われた。
頑張って涙を止めたながみんは、人がたくさんいて助けてくれる人もいるだろうから隔離地域から出ると言い出した。
彼氏じゃなくても隊長としての彼を元気づけたい健気な気持ち。
彼はそれも止めると、犯人の息子なのに以前と同じようには会えないと下を向いた。
母親が犯人なら今までしてきた功績がなくなる意味が分からないながみんはもう業を煮やし、考えるのを止めて彼を振り切り、外に飛び出した。

彼は急いで追いかけるが、早くすべきことがあまりに多すぎて、全てを終わらせても闇が晴れる気がしなくて、もう何もやりたくなくなって膝をついて泣き言を漏らし始めた。
しかし、誰もいない路上で漏らした泣き言を、オフロードバイカーだけが聞いていたのだった。









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